前回はNISAがどういう制度なのか、その意図するところや特徴を簡単に見てきました。
今回は、自身にとって最適な活用方法を探る第一歩として、NISAの有用性について検討していきましょう。
なぜ注目されているのか?
まずNISAが話題になっている背景として、どんなものが考えられると思いますか?
興味をひくポイントは人それぞれだと思いますが、私は以下の3つが大きな要因だと考えています。
①資産運用の利益が非課税になるお得感
②リタイアメント後に備える意識の高まり
③金融機関にとって収益拡大のチャンス
この内①については、前回提示した6つ特徴をおさらい頂ければ、納得してもらえると思います。
②については、NISAに対する政府の意図と、高齢化を自分事として受け入れ始めた個人の関心、この2つが相まった結果だと思います(参考記事:人生100年時代、どう考える?、老後の生活に必要なお金、いくらなの?)。
最後の③は「オマケみたいなもの」と言いたいところですが、実はバカにならない効果があります。
NISAの投資対象を販売する金融機関にとってみれば、①②によって高まったNISAへの関心は、個人に向けて金融商品を拡販できるビジネスチャンスだと捉えられます。
その結果、既存商品の拡販と新商品の開発に加え、それらの販促活動として宣伝広告の展開を広げるために、マスコミなどを通じてどんどん盛り上げていく、という動きになっています。
このように大勢の個人・組織にとって、将来に渡り利益を得られる素地が出来上がったため、NISAは「熱い話題」として注目され一気に拡大したわけです。
シミュレーションで比較してみる
ここまで見てきた限りでは、資産を増やすことに関して、NISAは大きく期待できる制度だと言っていいでしょう。
しかしながら、たとえ制度自体が優れていて注目を集めていたとしても、それだけで有用だと判断するのは早計です。
念のため、運用シミュレーションで数字として確かめてみましょう。
今回はウエルスアドバイザーのシミュレーターを使用して、シンプルな3例を試算しました。
これらに共通する条件は、運用期間:20年(40~60歳まで)、NISA投資枠を全て使う、年平均利回り:5%、途中売却は一切しない、運用利益に対して非課税になる税率: 20.315%(所得税・住民税を合算した源泉分離課税)です。
運用期間の設定は、以前の記事で見て頂いた通り、優良株式へ分散投資した場合の長期リターンは、20年を超えた運用ではマイナスにならない、という過去のデータに基づいています。
というわけで、計算結果を見てみましょう。
【例1:つみたて投資枠のみ利用】
投資条件:毎月10万円を15年間(55歳まで)積立投資
投資総額:1,800万円
➡最終価額:3,394万円
➡運用利益:1,594万円
(非課税額: 319万円)
【例2:成長投資枠のみ利用】
投資条件:毎年240万円を5年間(50歳まで)一括投資
投資総額:1,200万円(成長投資枠の上限)
➡最終価額:2,895万円
➡運用利益:1,695万円
(非課税額: 339万円)
【例3:つみたて・成長どちらの投資枠も利用】
投資条件:毎月10万円積立+毎年240万円一括を5年間(50歳まで)
投資総額:1,800万円(積立枠600万円+成長枠1,200万円)
➡最終価額:4,310万円
➡運用利益:2,510万円
(非課税額: 502万円)
少し補足すると、計算結果の表記において「最終価額」「運用利益」「非課税額」は、千円以下を四捨五入しています。
また、例2の投資総額が少なくなっているのは、成長投資枠だけではNISA投資枠の全てを使うことができないからです。
NISAの有用性を考える
各例において、最終価額(時価)から投資総額(取得価格=簿価)を差し引くと運用利益になります。
本来は運用利益から税金(ここでは非課税額の数字)を差し引いた残りが、最終的な資産増加額になります。
一方、NISAを利用すると、運用利益は無かったものとみなされて税金は発生しないので、運用利益そのものが資産増加額になります。
資産増加額の違いを最も実感できるのは、運用終了時の手取り額(現実に手元に残っていて自由に使えるお金)でしょう。
というわけで、今回のシミュレーションにおいて20年後の手取り額を、NISA「なし」と「あり」の場合がこれです。
(非課税額)
例1:3,075万円 ➡3,394万円
(319万円)
例2:2,556万円 ➡2,895万円
(339万円)
例3:3,808万円 ➡4,310万円
(502万円)
それぞれNISAで非課税になった分として、約300~500万円も手取り額が増えるのは、かなりのインパクトですね。
さらに、運用を20年で終わらせず継続すれば、利益に及ぼす複利効果もそれに連れて大きくなっていきます。
すると運用利益に対して定率で掛かってくる税金も、どんどん増えていきます。
(バラ色の数字を並べてミスリードするつもりはありませんが)仮に例1で運用期間のみ変更して40年に延長すると、本来の税金は1,400万円以上になります。
それがNISAでチャラになるわけですから、その効果は絶大です(運用終了時の手取り額は約9,000万円)。
現実の世界では資産価額の動きを予測するのは極めて困難で、さらに単純一方向に右肩上がりで増え続けることは稀です。
とは言え、過去の傾向を参考にすると長期運用であれば、増えたり減ったりを繰り返しながら資産額は増えていくことが期待できます。
そのような過去実績も合わせて、今回のシミュレーションの結果からは、資産形成にあたりNISAは有用な制度であることが確認できましたね。
では「すぐにNISAをはじめましょう!」…と言いたいところですが、何も考えずに利用するのはお勧めしません。
NISAに興味をお持ちの方にとって、資産が増えるシミュレーションより重要な、始める前に知っておくべき注意点があります。
とても大切なことなので、次回じっくり取り上げたいと思います。