長田FPオフィス

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NISAで注意すべき”大切なこと”

これまで、NISAは有用な制度であることを見てきました。
一方、前回の最後に示唆したように、何も考えずにNISAを利用する、つまり「良くわからないけど儲かりそうな株だから買っておく」という活用はお勧めしません。
非課税になるチャンスがあるんだから何もしないのは勿体ない、と考えるのは当然ですが、そのチャンスを活かすには注意すべきことがあります。

資産形成においてNISAを最大限活用するための注意点は何か?
今回は、NISA口座で金融商品の購入を始める前に知って欲しいことを説明していきます。

金融商品への投資であること

まず最も大切なことをお伝えします。
NISAを利用して株式等の金融商品を購入するのは、そもそも投資である、ということです。

NISAに限らず「投資する」という行為は、「自分の大切なお金を、利益をもたらしてくれると信じる金融商品へ変換する」ことです。
投資先は何でも良い、なんてわけないですよね。
つまり、NISA以前に「投資するんだ」という認識が先にあるべきなんです。

投資にはリスク管理が欠かせません
NISAを利用する=投資する、その前にリスクとは何なのかを改めて思い起こして、自身のリスク許容度を見直してみましょう。

非課税になるとは、利益も損失も無かったことになること

NISAの本質は、投資した金融商品について簿価(購入時の価額)ではなく時価(売却時価)で評価するということにあります。
言い換えれば「金融商品を売却する際に購入と売却を同値で行ったことにしてくれる」ということです。

これは、NISA口座では売却益や売却損という概念が存在しないことを意味します。
購入価額を基準にすると、そこからの差益(本来の売却益)には課税されない一方で、差損(本来の売却損)については他の利益との損益を通算できなくなります。
ここでの「他の利益」とは、NISA口座以外で生じた売却益と、全ての口座で生じた配当金収入、と理解頂ければOKです。
損益通算が適用されなければ、資産を増やすうえで不利になる取引があります。
それをイメージして頂けるよう、簡単に説明します。

売却益(NISA口座以外)

例えば特定口座(源泉徴収あり)で株式Aを保有していて運用利益(値上がり)が100ある場合、Aを売却すると運用利益が売却益として現実化します。
①同じく特定口座で株式Bを保有していて運用損失(値下がり)が60ある場合、Aと同じ年にBも売却すると運用損失60が売却損として現実化するので、AとBの運用に掛かる利益と損失を合算(損益通算)して残った利益40が課税対象になります。
よって、この年の取引における税金は8、最終的に増えた資産は32になります(損益通算後の40=100-60から課税額:8=40×20%を差し引いた残額)。
②これに対して、NISA口座で株式Cを保有していて運用損失(値下がり)が60ある場合、Aと同じ年にCを売却しても売却損60は無かったことになるため、A(利益あり)とC(損失なし)では損益通算できず、Aの売却益100が課税対象になります。
そのため、この年の取引における税金は20、最終的に増えた資産は20になります(Aの利益100から課税額:20=100×20%を差し引いた残額と、Cの値下がりで減った分の合計額)。
①と②を比べると、資産増加が少ない②は、利益を取り損なったことになります。

配当金収入(全ての口座)

先ほどの例で、株式Aを売却せずに配当金を貰ったとします。
要はAの「売却益」を「配当金」に置き換えます。
すると、取引①株式Bの売却(特定口座)と、②株式Cの売却(NISA口座)、それぞれの場合において、税金や最終的な資産増加の数字は、全て先ほどと同じ結果になります。つまり配当金収入の場合も、②は利益を取り損なってしまいます。

以上が、利益も損失も無かったことになる効果です。
取引によっては不利な(利益を取り損なう)方へ作用することが、お分かり頂けたと思います。
これはNISAにおいて見落としがちな落とし穴と言えます。
たとえ「今の自分には関係ない」としても、将来において取引の幅が広がるかもしれませんので、気に留めておく価値は十分あります。

高配当を狙う前に投資目的を再確認すること

NISAは金融商品に対する所得税の非課税制度なので、売却益(※所得税の言葉では譲渡所得と言います)だけでなく配当金収入(※同じく配当所得と言う)も対象になります。
つまり、NISA口座で生じた配当金収入は、税金を引かれずそのまま手取り額になります。
譲渡所得と異なり配当所得はマイナスにならないので、NISA口座で配当金を貰っている限り常に得することになるわけです。

そうであれば、将来的な値上がりを期待するよりも、定期的にチャリンチャリンとお金が入ってくる配当を見込める方が良い、と考えることもできます。
一般的には、株式など金融商品の値動きに比べて、配当金の増減は読みやすいです。
例えば、株式を発行する企業は、自主的に株価を動かすことはできませんが、配当金は自ら決定できます。
投資家からすれば、その企業の過去の配当実績と今後の配当政策と業績予想から、将来貰える配当金を試算できます。
また、株価に比べて配当の変動(ボラティリティ)は小さい傾向にあります。
そのため、多くの場合は譲渡所得より配当所得の方が安定的な収入になります。

このような事情から、NISAの活用方法として高配当な銘柄を狙った「高配当投資」を勧める方々が大勢いらっしゃいます。
推奨理由の大筋は、
”配当所得を得られる金融商品は、マイナスにならずボラティリティが小さいという特徴を持つ「手堅い投資先」だ。あとは配当利回りの高い「高配当銘柄」を選定できれば、値動きに心を乱されることなく安定収入を得られる”
というものです。

では、いったいどの程度の配当利回りがあれば高配当とみなせるのでしょう?
とても興味深いテーマですが、配当金に対する考え方は時代や場所に応じて変わってくるため、明確な基準はありません。
近年の先進国市場においては、だいたい配当利回り3~5%を超える辺りが高配当銘柄の目安になっています。

さて、ここまでの流れからすると、高配当投資はNISAと相性が良さそうです。
定期的な収入が得られることを優先するなら真っ先に検討していいと思いますが、それでも敢えて言いたいのは、高配当を狙う前に「なぜNISAを利用するのか」という自身の投資目的を再確認して欲しい、ということです。

NISAは「長期投資で資産形成する」ための制度です。
それを利用するということは、長い運用期間を終えた時点で資産額が「より増えている」状態を目指すからではないでしょうか?
もし私が「NISAを利用した高配当投資はお勧めか?」と問われたら、「はい」と即答します。
しかし私自身は、NISAでは高配当投資を選択していません。
自らの投資目的やリスク許容度を踏まえて、定期的な収入より将来の売却益を最大化(非課税に)したいからです。
ただし、高配当投資をしないわけではなく、NISA口座の限られた枠は使わず特定口座を使う、という方針です。
投資目的は人それぞれなので、そんな考え方もあるんだな、という一例にして頂けたらと思います。

過去10年の日経平均の年平均上昇率は約7.5%(2013年末終値16,291.31円➡2023年末終値33,464.17円)、2023年末時点の配当利回りは約1.8%でした。
切り取る期間によって評価は変わりますが、このデータを見る限りは、配当所得(配当金を10年間貰い続ける)より譲渡所得(10年間の値上がり後に売却する)の方が、最終的な手取り額は大きくなります。
たとえ配当利回り5%の高配当投資だったとしても、この期間では譲渡所得の方が大きいですね。

なお、NISAは日本の制度なので、日本の所得税は非課税になりますが、外国の所得税は非課税になりません
例えば米国株の配当金については、日本の所得税は非課税ですが、米国の所得税(約10%)は非課税にならず課税されるので、米国分を差し引いた残りが手取り額となります。

成長投資枠で外国の高配当株を購入したいという場合には、「税金が引かれているぞ…おかしいじゃないか!」とならないよう、予め注意しておきましょう。
配当金について、NISAとの関連をメインにおおまかに説明しましたが、機会があれば別記事で取り上げてみようと思います。

NISAは単なる入れ物

資産形成を始める入口として、NISAは最適な制度だと思います。
この制度をまとめると、

「少額投資非課税制度」
     +
「日本版個人貯蓄口座」
      ⇓
「日本で投資する個人は、少額(簿価合計1,800万円まで)なら、利益も損失も無かったことにできる証券口座を持てる」

ということです。
つまりNISAは、投資した金融商品を入れておく「NISA口座という名前の箱」を使える制度なんです。

こう言い換えてしまえば、「箱(NISA口座)」自体はただの入れ物にすぎない、その箱に入れる「中身(投資対象)」が重要だ、というようにNISAを正しく理解できますね。

いずれにしても投資である以上、簡単に儲かるわけではありません。
そのことを忘れずに、NISAを上手に使いこなしていきましょう。