これまで数回に渡りiDeCoの税の優遇について、拠出時・運用中と、受け取り時(一時金もしくは年金)に分けて、会社員と自営業の事例をシミュレーションしました。
今回は、それらの断片的だった試算結果を整理して、生涯を通して見たiDeCoの影響をイメージできるよう、まとめていきます。
一時金と年金を組み合わせて受け取ったら?
まとめに入る前に、最後のシミュレーションとして「一時金と年金の組み合わせ」という受け取り方にも触れておきます。
これまでと同じく会社員・自営業の2つの事例を基に、退職所得と公的年金等雑所得それぞれの控除を最大限活用するシミュレーションを行います。
受け取り条件の設定は、以下の2パターンとします。
最終的に所得ゼロ(非課税)の達成を目指しました。
退職金:2,000万円(退職時勤続35年)
iDeCo:529.6万円(加入期間15年)
パターンH:60歳で退職金の一部(退職所得控除と同額)、60-64歳でiDeCo、65歳-69歳で退職金の残りとiDeCoの残りを併給
退職金:2,000万円(退職時勤続35年)
iDeCo:1,800.8万円(加入期間15年)
パターンI :60歳でiDeCoの一部(退職所得控除と同額)、65歳で退職金の一部(退職所得控除と同額)、61-80歳でiDeCoの残り、66歳-70歳で退職金の残りを併給
税額の詳しい計算方法は割愛しますので、ご興味ある方は、国税庁の所得税率、退職所得、公的年金等雑所得の説明を、それぞれご参照願います。
どちらの所得も、控除を適用した後の数字がゼロ以下になる場合は、所得ゼロとみなして非課税になります。
ここで、iDeCoで運用した資産を61歳で受け取り開始する場合の最終(運用)価額は、60歳で受け取る場合と同額とします。
また、退職金は受け取り年齢によらず2,000万円に固定し、退職金とiDeCo以外の所得は無いものとします(公的年金は受給期間が重複しないよう限度まで繰り下げた後、75歳から老齢給付開始)。
試算結果は、百円以下を四捨五入して表記します(足し算の結果が合計と一致しない場合あり)。
というわけで、以下2パターンの結果です。
「60歳で退職金の一部(退職所得控除と同額)、60-64歳でiDeCo、65歳-69歳で退職金の残りとiDeCoの残りを併給」
(60歳)
【退職金(一時金)とiDeCo(年金)】
退職所得控除:1,850万円=800万円+{70万円×(35年-20年)}
※勤続年数で計算
➡退職所得:0万円=(1,850万円-1,850万円)×1/2
公的年金等控除:60万円
➡雑所得 :0万円=529.6万円/10年-60万円
➡所得小計:0万円=0万円+0万円
➡所得税額:0万円(非課税)
➡住民税額:0万円(非課税)
➡税額小計:0万円(非課税)
(61~64歳)
【iDeCo(年金)】
公的年金等控除:60万円
➡雑所得 :0万円=529.6万円/10年-60万円
➡所得税額:0万円(非課税)
➡住民税額:0万円(非課税)
➡税額小計:0万円(非課税)
※毎年非課税
(65~69歳)
【退職金の残り(年金)とiDeCo(年金)】
公的年金等控除:110万円
➡雑所得 :0万円={(2,000万円-1,850万円)/5年+529.6万円/10年}-110万円
➡所得税額:0万円(非課税)
➡住民税額:0万円(非課税)
➡税額小計:0万円(非課税)
※毎年非課税
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➡税額合計:0万円…①-H
「60歳でiDeCoの一部(退職所得控除と同額)、65歳で退職金の一部(退職所得控除と同額)、61-80歳でiDeCoの残り、66歳-70歳で退職金の残りを併給」
(60歳)
【iDeCo(一時金)】
退職所得控除:600万円=40万円×15年
※iDeCo加入年数で計算
➡退職所得:0万円=(600万円-600万円)×1/2
➡所得税額:0万円(非課税)
➡住民税額:0万円(非課税)
➡税額小計:0万円(非課税)
(61~64歳)
【iDeCoの残り(年金)】
公的年金等控除:60万円
➡雑所得 :0万円=(1,800.8万円-600万円)/20年-60万円
※課税される所得は、1,000円未満の端数を切り捨てた後の金額のため
➡所得税額:0万円(非課税)
➡住民税額:0万円(非課税)
➡税額小計:0万円(非課税)
※毎年非課税
(65歳)
【退職金(一時金)とiDeCoの残り(年金)】
退職所得控除:1,850万円=800万円+{70万円×(35年-20年)}
※勤続年数で計算
➡退職所得:0万円=(1,850万円-1,850万円)×1/2
公的年金等控除:110万円
➡雑所得 :0万円=(1,800.8万円-600万円)/20年-110万円
➡所得小計:0万円=0万円+0万円
➡所得税額:0万円(非課税)
➡住民税額:0万円(非課税)
➡税額小計:0万円(非課税)
(66~70歳)
【退職金の残り(年金)とiDeCoの残り(年金)】
公的年金等控除:110万円
➡雑所得 :0万円={(2,000万円-1,850万円)/5年+(1,800.8万円-600万円)/20年}-110万円
➡所得税額:0万円(非課税)
➡住民税額:0万円(非課税)
➡税額小計:0万円(非課税)
※毎年非課税
(71~74歳)
【iDeCoの残り(年金)】
公的年金等控除:110万円
➡雑所得 :0万円=(1,800.8万円-600万円)/20年-110万円
➡所得税額:0万円(非課税)
➡住民税額:0万円(非課税)
➡税額小計:0万円(非課税)
※毎年非課税
(75~80歳)
【iDeCoの残り(年金)】
公的年金等控除:110万円
➡雑所得 :?万円={(1,800.8万円-600万円)/20年+公的年金}-110万円
※75歳から繰り下げた公的年金の老齢給付が開始され、雑所得が生じる見込み
➡所得税額:?万円
➡住民税額:?万円
➡税額小計:?万円
※毎年課税される見込み
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➡税額合計:0+?万円…②-I
①-Hは当初の目的通り所得ゼロ(非課税)にできました。
一方、ちょっと強引にやったにもかかわらず、②-Iは公的年金との兼ね合いで75歳以降は所得ゼロにするのは難しいことが分かりました。
とはいえ、繰り下げた「公的年金の給付額」に応じた課税になるため、税額はさほど大きくならないと考えられます。
全シミュレーションの一覧
お待たせしました、まとめです。
iDeCoのお得さを見える化するため、事例①会社員と②自営業を合わせて全13シミュレーション(受け取りパターンA~I)の税の優遇について、拠出時・運用中の軽減額(優遇としてプラス効果)と、受け取り時の税額(優遇としてマイナス効果)を合算しました。
具体的には、こちらの「税の優遇総額」から、前々回と前回の「税額合計」を引き算した数字になります。
以下に一覧表示します。
なお、これらの結果は「設定した条件での例」にすぎません。
現実には、個人それぞれに異なる、様々な条件があります(家庭環境・職業・年齢・掛金額・投資対象・運用状況・受け取り方など)。
さらに、個人ではコントロールすることのできない世の中の流れもあります(法や税制の改正、経済状態など)。
私たちが「iDeCoがお得だったかどうか」を判断できるのは、このような多くの要因が影響し合った末、制度の利用を終えてはじめて可能になります。
どんな方法にせよ、何十年も先を予測するのは簡単ではありません。
それでも、「私の場合どうなるんだろう?」と考えてみることは、より良い未来を開くカギになるはずです。
自身に合わせた設定でiDeCoのシミュレーションを行い、その効果をイメージすることは、カギを手に入れる大きな助けになるでしょう。