長田FPオフィス

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iDeCoをどう使う?

これまでiDeCoについて、どのような制度でどれだけ税の優遇を受けられるのかを、シミュレーションも交えながら複数回に渡って見てきました。
今回はiDeCoの総括として、そのメリット・デメリットを考えていきます。

分かりやすいものから意外と気付きにくいものまで、予め知っておけばiDeCoを上手く活用することができるはずです。
なかにはメリットとデメリットの両方になるものもあります。

「何が正しいのか?」という観点ではなく、「私にとっては、どう活かせるのか?」を考え、自分事に落とし込みながら見て頂ければ、きっとタメになる内容だと思います。

メリット

最初にメリットと考えられる点を列記します。

①積立・運用期間中の節税効果の大きさ(所得税と住民税の軽減)
 ・毎年の節税額をほぼ確定できるため、収支把握と家計管理がしやすくなります
 ・運用している間は、運用益に対して非課税です。
 ・住宅ローン控除と併用可能で、所得税が非課税になる可能性もあります。
 ・子育て世代にとっては、保育料高等学校等修学支援金の算定に有利に働きます(所得控除の適用により、住民税の計算の基になる「所得」が低減されるため)。

②受け取り時の節税効果
 ・退職所得控除と公的年金等控除を適用できるので、運用状況や受け取り方によっては非課税を目指せます。

住宅を取得(新築や増改築など)する際に住宅ローンを利用すると、住宅借入金等特別控除という所得税の優遇を受けることができます。
この控除の名称を分かりやすく言い換えたものが、住宅ローン控除です。
住宅ローン控除は税額控除(算出された控除額が納税額から直接差し引かれるというもの)の一つで、まず所得税に適用でき、所得税額が低減されます。
そして所得税がゼロになってもまだ控除を使い切れない場合は住民税に適用でき、住民税額が低減されます(ただし限度あり)。
住宅ローン控除の優遇を受けるには、いろいろな条件があるので、詳しくはこちらをご参照願います。

デメリット

次にデメリットと考えられる点ですが、先にお伝えしておくと、最終的に「たいして気にならない」と言えるものがほとんどです。
なので、デメリットがあるから「iDeCoはパス!」とならずに、参考程度に留めて頂きたいと思います。

①NISAに比べて手続きが面倒
 ・利用開始(加入)までに手間と時間が掛かります。
 ・運用条件(運用管理機関、投資対象、掛金額など)の変更に制限があります。
 ・お得に受け取るには、場合によっては入念な検討が必要で、簡単ではありません。

②運用方法に難あり
 ・投資対象、掛金額などが限定的であり、原則60歳まで引き出し不可など柔軟性がありません

③口座管理や運用自体に別途手数料が発生

④退職金や年金の制度が変われば、その影響を受ける可能性あり
 ・退職所得控除は少なくなる傾向が見られます(「新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画2023改正版」pp.12,内閣官房,2023年6月16日)。
 ・公的年金の受給開始は遅れる傾向が見られます(「支給開始年齢について」資料1の2枚目,第4回社会保障審議会年金部会, 2011年10月11日)。
 ・現在(2024年2月16日時点)上記の傾向があると言っても、今後流れが変わるかもしれないので、将来どうなるかは不確かです。

メリットとデメリットの比較

ここまでに挙げたものを比べれば、自らコントロールできることはメリット、できないことはデメリット、と分けられます。
「思うように制御できない不確かさはデメリットだ」、そう考えるのは自然ですね。

ただし注意したい点があります。

一つ目は、ここでデメリットに分類しているものでも、実はメリットと言えるものがある、ということです。
例えば、デメリット②で挙げた「60歳まで資金拘束」されることを「効率的に資金を移動できない」と考えずに、「衝動的に売らないで済む」とか「精神面で負担を感じず(最長75歳まで)非課税の運用を続けやすい」と考えれば、むしろメリットではないでしょうか。
本来どの意見も正しいはずなのに、視点が異なれば見え方が変わってくるため、個人の考え方や立場に応じて人それぞれに解釈できるわけです。

二つ目は、デメリットばかりに目を向けずメリットとのバランスを考えるべき、ということです。
例えば、そもそも収入が少ない人(例:専業主婦(主夫))は、所得控除による税の優遇がないかもしれません。
その場合、拠出時や運用中はデメリット③で挙げた手数料を負うだけになりますが、受け取り時にはメリット②の退職所得控除や公的年金等控除を適用できるので、トータルで捉えたら悪くなさそう(資産形成にとってプラス)に思えます。
こうして比べてみることで、ある程度のデメリットは受け入れつつメリットを享受する、という包括的な考え方ができれば、最適な活用方法が見えてくると思います。

「資産形成」=「投資」を忘れないこと

メディアなどでiDeCoの情報が発信される際には、貯金感覚で積み立てられる、堅実に節税できる、という実用面だけがクローズアップされがちで、最も重要なことが抜け落ちている場合が多いです。

では「最も重要なこと」とは何でしょうか?

それはこちらでお伝えしたように、「iDeCoを利用する」=「自ら年金資産を形成する」=「投資する」、という認識を持つことに他なりません。

投資である以上、その目的と自身のリスク許容度、何に対して投資するのか(運用する金融商品は何か)、という基本的なことが大切になります。
資産は、節税ではなく投資から得られる運用益によって形成されるからです。
このことさえ頭に入っていれば、極端に言って「いくら節税できるか?」なんてことは忘れても問題ありません。
制度を利用して積立投資することがiDeCoの肝なので、節税はおまけ(投資のハードルを下げてくれた)くらいがちょうど良いと思います。

NISAとの使い分け

締めとして、資産形成するためには「iDeCoとNISAのどちらを利用すれば良いか?」について、私の考えをお伝えします。

iDeCoかNISAかの選択について「老後のための資産運用は、60歳までに使用見込みのない資金はiDeCo、60歳までに使用見込みのある資金はNISA」というアドバイスが一般的です。

これは特に、iDeCoかNISAの一方にしか投資資金を回せない場合には、選択基準の一つとして分かりやすい目安になります。
どちらの制度を利用して投資しても同じ金融商品を選えらべるなら、常にこの認識で良いでしょう。

しかし、実際はNISAの方が投資対象の幅が広いため、iDeCoに比べて長期投資の運用益を大きくする選択肢が多いと言えます(運用益を小さくする選択肢も多いですが)。
すると、60歳までどうするかに関わらず、NISAの方が効率的に資産運用できそうな気がします。

こうした事実を踏まえて考えると、60歳までの資金の使用見込み有無で判断するのは、初手ではなく、どうしても決められない場合の最終手段とするのが、賢明に思えます。

掛金を拠出している間に税の優遇(所得控除の効果による所得税・住民税の軽減)を受けられるiDeCoは、NISAに比べて現役時代に有利に働き、お得感を得られます。
そこでこれまでの話を統合して、「NISAは老後資金を育てる」「iDeCoは現役時のランニングコスト(税金)を抑える」、各々そういう役割だと認識してみるのも、けっこう合理的かもしれません。

資産形成(投資)を促進するために税を優遇する制度、それがiDeCoやNISAです。
どちらか一方を選択する際に参考として頂けるよう、考えるべきポイントを以下に整理しました。
お得な制度を上手に活用して、自身にとっての最適解を見つけましょう。

iDeCoかNISAか、の前に…

大前提:投資するという自覚を持つ
 ➡投資に対する自身のリスク許容度を考える

iDeCoかNISAを検討するなら…

最優先事項:運用益(売却後に残る資産額)の最大化
おまけ事項:税の優遇(制度の利用による節税効果)の最大化
 ➡(おかしな投資対象でなければ)必ず優遇を受けられるので、欲張りすぎなくてOK

それでも決められないなら…

最後の基準:投資資金の使用見込み時期で判断する
 ➡60歳までに使わない資金はiDeCo
 ➡60歳までに使う資金はNISA