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日本のセーフティネット:公的保険

保険は万が一の事態に備えるもので、何かあった際に保障・補償(以下、保障と表記)を受ける手段=人生における「セーフティネット」です。
前回、日米欧の家計の資産構成において、保険の割合に違いはないことが分かりました。
ただし、この保険は「民間保険」を示しており、「公的保険」は含まれていません。
実際には、公的保険も民間保険も区別なく全部合わせてみて、必要な時に必要な保障を受けられるかどうか、という点が重要です。

公的保険は強制加入の保険なので、自動的に一定の保障は確保されることになります。
一方、民間保険は任意加入の保険なので、保障内容を自由に選択できます。
つまり、公的保険で足りない分の保障があれば、その分だけ民間保険に加入するというのが、「困ったときにセーフティネットとして機能する」という本来の目的に合う保険の利用方法と言えます。
今回は、日本のセーフティネットの基盤である主な公的保険をみていきましょう。

医療保険

まず、最も身近なものが医療保険です。

日本では国民皆保険制度が採られています。
主な特徴は「全国民」が「何の制限も受けず自由に医療機関を選ぶ」ことができ、「少額の窓口負担(基本は3割)で医療サービスを受けられる」という3条件にあります。

この3つが揃っていることは、他国と比較しても優れていると言えます。
例えば、前回例示したアメリカの公的医療保険は、そもそも全国民を対象としていません。
イギリスでは初めにかかりつけ医に受診しなければならず、自由に医療機関を選べません。
フランスは窓口で一旦全額負担(後で償還されるので実質3割の自己負担)する必要があります。

また、万が一、医療費が高額になった場合、日本の医療保険には収入等に応じて自己限度額が決められている「高額療養費」という制度があります。
大雑把な例で試算すると、年収500万円(賞与なし、各種手当含む)の方が1カ月入院して医療費総額100万円だった場合、最終的な自己負担は87,430円になります。
つまり、90万円以上も補ってくれるわけです。
この様に、日本では公的保険の使い勝手が良く、他国と比べて医療サービスを受けるハードルが低くなっています。

年金保険

次に、年金保険です。

日本の年金制度は、20歳以上60歳未満の全国民が加入対象の国民年金保険(1階部分)、会社員や公務員などが加入対象の厚生年金保険(2階部分)、さらに個人で任意加入できる私的年金(3階部分)、の3階建て構成になっています。

年金については、加入対象者・保険料率・支給開始年齢・支給額のそれぞれが国によって様々な設計になっており、人口構成や年金財政に応じて制度の見直しが頻繁に行われているため、諸外国の制度と比較して優劣を付けるのは難しいです。
とはいえ、それでは何もイメージ出来ないので、参考として一つの指標を引用します。
OECDより公表されている、公的年金の所得代替率です。

これはリタイアメント後に支給される公的年金によって、現役時の平均所得の何割を賄えているかを試算したものです。
抜粋すると、日本32.4%、アメリカ39.2%、英国21.6%、OECD平均42.2%です。

日米欧では、皆保険は日本のみ、また現役時に負担する保険料率も異なります。
大まかにみると、公的年金だけでは老後生活に余裕を持てない、というのは世界共通のようですね。

労働保険

最後に労働保険を概観してみましょう。

労働保険は、大きく分けると失業と労働災害に対する補償になります。
国によって詳細は異なりますが、サラリーマンなどいわゆる勤め人に対する公的保険として制度化されています(自営業者は対象外)。

この内、労災補償は業務・職業上の負傷や疾病などを対象とし、日本の様に通勤時も適用される国はあります。
日本では労働者災害補償保険と呼ばれ、治療を受けられる療養給付や仕事に就けない間の収入を補填する休業給付など、様々な補償を受けられます。

失業保険に該当する制度は、各国の失業率や労働に関する価値観の違いなども反映されています。
日本では雇用保険と呼ばれ、会社を辞めて失業状態にある際に支給される基本手当の他に、再就職を支援する就業促進手当や教育訓練給付金などがあります。

また、育児や介護休業についても、雇用保険からの給付になります。
いずれにしても、日本では労働保険による補償は多岐に渡り手厚い内容だと言えます。