長田FPオフィス

お金と正しく付き合うブログ

保険という資産

以前、日米欧の家計の金融資産構成のデータを比較しました。
改めて概要を掲載しますが、このうち、構成割合に差がない「保険・年金」には敢えて触れませんでした。

しかし、実はこの「保険・年金」は、家計に対して即効性のある影響を及ぼす、極めて重要なものなんです。
今回は「保険・年金」をまとめて「保険」と一括りに記したうえで、分かっているようで分かっていない保険の概要をみていきましょう。

公的保険と民間保険

保険というのは一般的に、公的保険と民間保険の2つに分けられます。
加入者の観点からすると、大きな違いは、知らず知らずのうちに入っているのが公的保険(強制加入)で、自ら商品を選定して入るのが民間保険(任意加入)という点です。
…厳密に言うと例外はありますが、ここでは話をシンプルにするため、それらのことは考えません。

今回見てきた家計資産のデータにおいて、日米欧に違いは見られなかった保険ですが、これは民間保険の数字を示しており、公的保険はカウントしていません(年金も同様)。
つまり、このデータで資産とみなされているのは「民間保険」だけです。

仮に、公的保険が充実していて民間保険の必要性が低いA国と、公的保険が不十分で民間保険の必要性が高いB国があるとします。
この2国を比べると、特別な事情がなければ、A国の方が民間保険の加入額は少なくなると予想される(必要性が低い)ため、資産に占める保険の割合はA国の方が低くなるはずです。
この場合、「公的保険の充実度(①)」と「民間保険の加入額=資産に占める保険の割合(②)」に因果関係がある、ということになります(①が原因、②が結果)。

一方、実際の日米欧の比較では、資産に占める保険(民間保険)の割合は同程度でした。
他に影響を及ぼすものがない限り、結果である②に差がなければ、原因である①にも差はないはずです。
つまり、日米欧の公的保険は同程度に充実している、と推測できることになります。
はたして、本当にそうなのでしょうか?
簡単な例で考えてみましょう。

例えば医療保険

ここでは日常生活に最も身近な医療保険を取り上げます。
ご存じの通り日本の公的医療保険は国民皆保険制度で、全国民が強制的に健康保険(以下、国民健康保険も含む)に加入することになります。
日本の健康保険については、保険料負担が高いという点に目が行きがちですが、保障内容の充実度に目を移すと、実は世界トップクラスの優良保険だと言えます。

何が優れているかと言うと、「全国民」が「何の制限も受けず自由に医療機関を選ぶ」ことができ、「少額の窓口負担で医療サービスを受けられる」という条件が揃っていることです。
我々日本人にとっては当たり前すぎて、ありがたみを感じづらいですが、他国において病気やケガで医療サービスを受けようとすると、日本の健康保険のすごさを実感できます。

例として、アメリカと比較してみます。
アメリカの公的な医療保険はメディケア・メディエイド制度というもので、対象者は高齢者および低所得者に限定されています。
日本と異なり国民皆保険ではないため、対象外の方は公的保険に加入できません。
捻挫や風邪で病院を受診して薬を処方してもらう場合、日本では基本3割の自己負担で済みます。
つまり、掛かった費用の7割は払わなくていいのですが、アメリカで無保険の場合は全額自己負担です。
今日から日本もアメリカと同じ制度になりますよ、と言われたら、無保険のままでは、医療費が3倍以上に増えてしまいます。

ちょっと想像してみましょう、医療保険のない状態を。

体が悲鳴を上げていても耐えられる範囲の苦痛なら、病院に行くのも薬が欲しいのも我慢するのではないでしょうか?
しかし、そのままだと症状の悪化を招くだけでなく、最悪の場合は治るものも治らない悲惨な状態に陥ってしまいます。
さすがにそれは回避したい、と多くの人が考えます。
そのため、アメリカでは民間の医療保険が必要になるわけです。
一方、日本では全国民が公的医療保険に加入しているので、民間保険の必要性はアメリカほど逼迫していないと考えられます。

家計資産に占める保険(民間保険)の割合に話を戻すと、日米で同じくらい保有していましたね。
ここで見たとおり、少なくとも医療については民間保険の必要性に違いがあるにもかかわらず、です。
あれ?必要性が低い日本の方が、保険資産の割合が低いはずでは?

というわけで、保険全体がどうなっているかを掴むため、次回はもう少し詳細に「セーフティネット」としての保険の姿を見ていきましょう。