投資した資産を堅実に運用したい人も、投機的に相場を読んで一発当てたい人も、「大きな利益が欲しい」「でも不安になるのはイヤ」という考えが根底にあるのではないでしょうか?
お金に限ったことではありませんが、何かしらのリターンを得るには、相応のリスクを取る必要があります。
と言っても、リスクが大きくなってきたり、リスクの悪い側面(損失)が顕在化しそうになると、不安な気持ちが芽生えて機嫌が悪くなることもあるでしょう。
こうしたネガティブ要素から遠ざかるために、なるべくリスクの低い投資対象を選びたいと思うのが人情です。
何かしら資産運用をするならば、そんな低リスクなものに投資したいですよね。
というわけで今回は、私たちにとって身近で人気が高い投資対象である「株式」と「不動産」を取り上げて、それぞれのリスクについて考えていきたいと思います。
「投資するなら、どちらリスクが低いのか?」という点を、比べてみましょう。
投資リスク
はじめに、投資におけるリスクとは何なのか、それを明確にしておきましょう。
資産運用の世界では、一般的に「予測の不確かさ」を数値化した「変動」のことを、リスクと呼びます(リスクとは何なのか?)。
元のところからマイナス(損失)になるだけでなく、プラス(利益)になることも、リスクになります。
つまり、「リスクとリターンは表裏一体」という言葉通りなんですね。
ちなみに、資産価値の変動性(これまでの傾向からの変わりやすさ)は、ボラティリティと言われています。
そして、このボラティリティの方が、私たちが普段使っているリスクという言葉に近いイメージかと思います(どう動くか分からない=リスクあり、という具合に)。
分かりやすく言えば、平均から±10ポイント変動するなら、その幅±10のことを「リスク」、その平均から上がったり・下がったり・変わらなかったりと、いろいろ振り回されることを「ボラティリティ」、という感じです。
というわけで、ここからは私たちの普段の感覚に近い「ボラティリティ」を「投資リスク」と言い換え(上記の無印の「リスク」とは別の言葉として)、話を進めていくことにします。
株式投資
それでは、まず「株式」を見ていきましょう。
一般的に、私たちが市場で取引できる株式は、日本では東証(東京証券取引所)、米国ではNYSE(ニューヨーク証券取引所)やNASDAQなどに上場している銘柄です。
取引所によって市場が開かれている時間(取引できる時間)は異なりますが、基本的には、簡単なルールに則って自由に取引できます。
取引を行うには証券口座が必要ですが、口座の開設自体は難しくありません(それよりも、口座を開く証券会社を選ぶ方が難しいです)。
開設した口座に資金を入れたら、すぐにスタートできます。
株式投資の基本は、売ったり買ったりするだけの、とてもシンプルな取引です。
ただし、売り買いを繰り返して継続的に利益を得るのは、簡単ではありません。
特に、短期間でタイミングを計った投機的な取引は、(私も含めて)ほとんどの人が損をすることになるので、やらない方が無難でしょう。
とはいえ、売り買いしたくなる気持ちは理解できます。
株式は時価で評価されるので、その上げ下げをリアルタイムで見ていると、「上手くやれば儲かりそう」という誘惑に駆られるものです。
これは、ボラティリティ(変動性)が見えるがゆえの衝動だと思いますが、そのおかげで、私も何度か悔しい経験をしました…
ちょっと脱線しましたが、このように、株式はボラティリティ、つまり「投資リスク」が「リアルタイムで見える」ものだと言えます。
不動産投資
続いては「不動産」です。
こちらは株式と異なり、専用の取引所があるわけでも、専用の取引口座が必要というわけでもなく、その点では誰でも自由にスタートできます。
ただし、不動産取引に関する法規・商習慣など、かなりのボリュームの知識を学ばなければ利益を得ることは難しいので、株式のように気軽に取り組めるものではありません(実取引においては、宅地建物取引士など有資格者の独占業務もあり、ハードルは低くないです)。
一方、株式と違い不動産は、土地や建物などの実体がある(手に触れられる・目で見える)という現物投資であるため、投資対象の存在を確認できるという安心感はあるでしょう。
また、賃貸物件であれば家賃収入が得られるため、安定したインカムゲインも大きな魅力になると思います。
こうしたことから、個人にも人気の投資となっています。
さらに人気の背景として、不動産の評価額は株式ほど変動しない(ボラティリティが低い)、というコメントを良く目にします。
でも、この見解には大きな誤解があるため、実は不動産投資の際に特に注意すべきポイントになるんです。
何が誤解かと言うと、不動産相場は日々値動きが見える取引市場(株式なら東証など)がないため時価評価が難しいだけであって、変動しない(ボラティリティが低い)のではなく、変動しているのかどうか(ボラティリティが高いか低いか)リアルタイムでは分からない、というのが実態なんです。
つまり、不動産は「投資リスク」が「リアルタイムで見えない」ものだと言えます。
安心と安全の違い
突然ですが、オバケを怖がる子供に向かって「オバケがいる!」と言ったら、その子はすぐに目を塞いでオバケを見えなくしてしまった、…こんな場面に見覚えありませんか?
子供にしてみればオバケの恐怖から逃れるために目を塞いだわけですが、これって現実にはオバケのリスクが去ったのではなく、「リスクが見えなくなった」だけですよね。
資産価値の評価(値動き)がリアルタイムに公表されない(時価が見えない)というのは、これと同じです。
それでは、このオバケの話を、投資の話に戻してみましょう。
これから三つのグラフが出てきますが、どれも、ある投資対象の値動きを記録しています。
縦軸は時価額[円]、横軸は時間[日]、オレンジ色の点は日々の資産評価額を表します。
まずは両軸の数字を隠して、二つのグラフを見て頂きます。
最初は、以下のグラフ①です。

ここではオレンジ色の点が二つ、つまり計2日分の評価額が表示されています。
値動きを分かりやすくするため、二つの点を緑色の線で繋ぎました。
こうしてグラフを眺めると緑色の線の傾きは緩やかなので、この投資対象はあまり値動きのないモノに思えますね。
次にグラフ②です。

こちらはオレンジ色の点が多くなり、計21日分の評価額が表示されています。
グラフ①と同じく、値動きを分かりやすくするため、各点を青色の線で繋いでいます。
こちらのグラフを見ると、この投資対象の値動きは激しそうに思えますね。
それでは最後に、隠されていた両軸の数字を出現させてみましょう。
それがこちらのグラフ③です。

これは「2024年8月の日経平均株価の値動き」になります。
この③を見てお分かり頂けると思いますが、先ほどの①と②は見せ方を変えた同じモノで、①は②に記録されている月中のデータを隠して「見えない」ようにしただけのグラフだったんです。
たったこれだけのことなのに、二つのグラフはだいぶ印象が違いますよね。
投資リスクの観点からすれば、リアルタイムでリスクが「見えない」のが①、「見える」のが②というわけです。
これを現実の投資対象に置き換えてみると、年に数回しかリスクが見えない不動産は①に近いと言えます(株式は②)。
①は気休めになるかもしれませんが、万が一、資産評価額が急落して下げ止まらなければ、リスクがリアルタイムで見えないことは、それこそ致命的になるでしょう。
つまり、①は(気休めになり)安心に思えるかもしれないけど、全く安全ではないんです。
この例では、③に見られるように8月5日の急落後すぐに戻ったので、結果として、命取りになった人は多くなかったでしょう。
でも、それはただ運が良かっただけのことであり、現実には当時とても危険な状態だった、という事実に変わりありませんよね(日本版ブラックマンデーと資産運用)。
まとめ
ここまでの話を整理してみると、株式と不動産の違いは以下のようになります。
株式 不動産
時価の公表頻度 高 低
投資リスク 見える 見えない
流動性 高 低
このうち流動性とは、何か取引したい時、その取引に応じる相手(売り手・買い手)の見つけやすさ、つまり投資対象の売買しやすさ(売りたい時に売れるか・買いたい時に買えるか)のことです。
一般的に、株式は流動性が高く、不動産は低い、と言われています。
不動産は一見すると安心できそうな投資対象に思えますが、リアルタイムでリスクが見える(時価が公表される)流動性の高い株式と比べたら、リスクは見えず(時価が公表されない)流動性が低い、という特徴があります。
この点をしっかり理解していない人にとっては、不動産は安全性に疑問が残る資産になってしまいます。
そのため、投資対象として見た場合、株式よりも注意を要するモノだと言えるでしょう。
念のため誤解の無いようお断りしておくと、今回の内容は、株式と不動産のどちらが優れているのか、という話ではありません。
どちらも一長一短あり、人によって好き嫌いなどもありますが、いずれにしても上手に使えば資産形成に役立つモノです。
ただし、そこから得られるリターンだけでなく、多くの人が見落としがちな投資リスクにも気付いて頂きたい、という思いを込めてお伝えしています。
投資対象が何であっても、資産運用を検討する際は、正しい知識を学び、リターンとリスクどちらも忘れず、大切なお金を使うようにしてくださいね。