この夏、日本の株式市場に衝撃が走りました。
2024年8月5日の月曜日、日経平均株価は急落し終値ベースで前日比4,451.28円安まで下げ、その下落率は12.4%と歴代2位を記録しました。
歴史に深く刻まれることとなったこの暴落は、いったい何が原因だったのか?
経済の専門家(いわゆるエコノミストや学者)から野次馬(マスコミ)まで、このテーマが飯のタネになる人々が、ここぞとばかりに様々な見解を発信して、メディアはちょっとした「祭り」状態になっていました。
そんななか、この日の私は飛んでくる火の粉を振り払うことに忙しく、美味しそうに焼けている火中の栗(バーゲンセールまで安くなった優良銘柄)を拾えなかった、いわゆる「残念な大多数」の一人でした。
今回は、当事者として私がリアルに味わった感覚と、その後に出てきた各種データを基に、この「日本版ブラックマンデー」について振り返ってみたいと思います。
そのうえで、私たち個人の資産運用において活かせることは何か、今後の指針となるものについて考察していきます。
事実の確認
日本版ブラックマンデーは、前週から続く下落基調が一気に暴発した2024年8月5日(月)に発生しました。
この名称は人によってまちまちですが、1987年10月19日(月)に米国市場で発生した本家のブラックマンデーになぞらえて、ここでは日本版ブラックマンデーと呼ぶことにします。
日本版は、終値ベースで前日8月2日(金)35,909.70円から5日(月)31,458.42円まで下げるという記録的な1日で、海外から「日本市場がクラッシュ(crash)した」と言われるほど、強烈なインパクトを与えた急落ぶりでした。
その原因と結果を検証する準備として、まず主な数字(事実)を箇条書きしておきます。
発生日付:2024年8月5日(月)
前日終値:35,909.70円
当日終値:31,458.42円(安値は31,156.12円)
下落幅 :4,451.28円(歴代1位)
下落率 :12.40%(歴代2位)
※下落率の歴代1位は14.90%(下落幅3,836.48円)で、
日付は1987年10月20日(本家ブラックマンデーの翌日)
日経平均VI(ボラティリティ・インデックス)指数:70.69
※当日高値85.38(リーマンショックに次ぐ歴代2位)
原因の検討
暴落当日からしばらくの間、「原因は○○だ!」という情報発信が数多く見られました。
「なるほどな」と納得できるものもあれば、「何でそうなるの?」というトンデモ理論まで、まさに玉石混交といった状態でした。
なかには「ミスリードしそうで危ないなぁ」と気になるものが、いくつかありました。
何を危なく感じたかというと、それは原因と結果をごちゃ混ぜにしてしまった情報です。
良く聞く(読む)と論理が破綻していることが分かるのですが、それっぽい人にそれっぽい言葉で自信たっぷりに語られると、その情報が何だか正しいように思えてしまい、受け手をミスリードすることになる、という極めてやっかいなヤツです。
そこで、ここでは原因と結果を明確に分けて、私の考えを説明していきます。
まず、原因ですが、これははっきりしていて、「日銀の金融政策に対する不信感」です。
日銀は2024年3月にマイナス金利政策を解除してからも、「経済指標を確認しながら政策運営していく」というデータ重視の方針を謳い、実際7月まではその方針通りに金融政策を進めていたため、国内外の市場関係者から相応の信頼を得ていました。
当然ながら、「日本は失われた30年の長いトンネルを抜け、いよいよデフレを脱却できる」、という期待感も高まっていました。
その流れのなかで、政策金利が利上げされることは既定路線であったものの、それは消費や実質賃金やGDPなど主要なデータに基づき、デフレ解消が確認できた後に実施されること、そう誰もが認識していました。
ところが、7月31日までに出ていた経済指標は、デフレ解消どころか再びデフレに戻るような数字が並んでいました。
にもかかわらず、日銀は今回の会合で「利上げを決定した」と発表しました。
これは明らかにデータを無視した拙速な判断だったため、良好だった市場関係者からの信頼は一気に崩れてしまい、日銀に対して「やっていることと言っていることが違う」「この先も何をするか分からない」という不信が生まれたわけです。
なぜ日銀がそんな愚行に走ったのか、部外者の私にとって理由は分かりませんが、おそらく円安是正への圧力が背景にあったのではないかと、そんなふうに憶測しています。
円安是正の圧力について憶測すると、主なものはこんな感じだと思います。
①政局反映:春先からの政府与党(岸田首相・河野大臣・茂木幹事長)による発言
②マスコミの煽り:異常なまでの円安悪玉論(どこかの国の陰謀かと疑いたくなるレベル)
結果の整理
「日銀の金融政策に対する不信感」をきっかけにして起こった結果と、その内訳について、以下にまとめてみました。
結果:日本株急落(1987年ブラックマンデーに次ぐ1日あたり下落率)
内訳:この結果の「中身」を分類してみました。
①円キャリー取引の解消
②コンピュータ(AIなど)によるプログラム売買の膨張
③個人・ヘッジファンドによるデリバティブ取引の追証回避資金の確保
※これらが原因という発信は、原因と結果がごちゃ混ぜになっている可能性あり
なお、この結果(日本株急落)を増幅させた要素として、アメリカの景気後退懸念があったこともお伝えしておきます。
こちらも今回の暴落の原因だと言われることがありますが、各国の市場動向を比較すれば、それは言い過ぎだということが分かります(米景気懸念に起因して世界中の市場は下落したものの、8月5日の下落率は日本だけが突出していた)。
いずれにしても日銀は、市場との大切な約束である「データを重視して見切り発車しない」という実直でシンプルなことを守っていれば、これほどの大惨事を引き起こすことにはならなかったはずです。
約束を守っていたら、むしろ利上げはプラス要因(失われた30年とデフレ脱却に対して日銀が自信を持った→そもそも民間企業は好調だし日本経済は長期で上向く、というロジック)になったのではないでしょうか。
極端な言葉を使いますが、圧力や妄言に屈して約束を破った大人の結末はどうなるのか?
…今回の暴落では、そんな反面教師的な教訓を得られた気がします(大きな代償と引換に)。
まとめ
ここまで日本版ブラックマンデーについて、事実を確認し原因を検討のうえ、結果の整理を行ってきました。
改めてまとめると、以下のようになります。
日付:2024年8月5日(月)
終値:35,909.70円(前日)➡31,458.42円(当日)
下落率:12.40%(歴代2位)※下落幅は歴代1位
原因:日銀の金融政策に対する不信感(7月31日会見)
結果:日本株急落(1987年ブラックマンデー以来の下落率)
内訳①円キャリー取引の解消
内訳②コンピュータ(AIなど)によるプログラム売買の膨張
内訳③個人・ヘッジファンドによるデリバティブ取引の追証回避資金の確保
※タイミング悪く、米景気の後退懸念が下落の増幅要素となった
ここで私と同じく手痛い思いをした人もいるかもしれませんが、そうであればなおのこと、転んでもタダでは起きない精神で、この経験を今後の資産運用に活かしたいところです。
暴落翌日の8月6日以降、市場では日経平均が急速な上昇を続けて、16日には終値ベースで38,000円台を回復しました。
今回の暴落は、景気や企業業績が原因ではなかったため、戻りも早かったわけですね。
この先も上昇維持できるかは分かりませんが、後になって振り返ってみたら、優良資産への積立増額や買い増しの絶好のチャンスだった、と言える可能性が高いでしょう。
とはいえ、急落の渦中において積極的に買い増しできた人は、ほとんどいないと思います。
ただ、それでも気にする必要はありません。
チャンスを逃すことは悔しいかもしれませんが、それよりも私たちにとって大切なことは、恐怖のあまり保有している優良資産を投げ売りしたりせず、いつも通り積立投資を継続することにあります。
むしろ「長期で資産運用していれば、こういうこともあるんだ」と、ありのまま受け入れ、自身の投資経験が豊かになったことをポジティブに捉えると良いでしょう。
また、新たにNISAで積立投資をはじめて間もない人にとっては、早い時期(つまり運用資産が少なく暴落の影響が小さい段階)に、滅多に起きないようなイベントに遭遇したわけで、これは見方を変えると自身のリスク許容度をリアルに実感することができた好機だったと、その幸運を喜んでも良いくらいです。
「歴史は繰り返さないが、韻を踏む」というマーク・トウェインの名言の通り、これからも同じような急落があるかもしれません。
そんな時こそ、今回の経験を思い出して、ブレずに資産運用を続けていきたいですね。
多くのメディアでは、今回の暴落は「円キャリー取引の解消」が原因(主犯)だと、相当な悪者扱いをされています。
ただし、ご説明した通り、これは原因ではなく「起こった事象の一部」=「結果の内訳」というのが正しい認識です。
なかには「日銀を責めるのは間違い」などと言う人もいますが、そうした人たちは、原因と結果をごちゃ混ぜにして論理が破綻しているため、自らが、いわゆる後知恵バイアスに陥っていることに気付いていないようです(事後の「結果」が分かりやすかったため、それを「結果」ではなく「原因」として仕立て上げたわけです)。
穿った見方をすれば、自分の商売上の立場が悪くなる(干される)のを避けるため、政府・日銀を庇ったのか、もしくはそれまでメディアを通じてさんざん「円安悪玉論」を煽った責任を負わされたくない、と及び腰になったのか、そんな人たちが多いように思えます。
それと同じく、今回の暴落後に鬼の首を獲ったように「バブル相場だった」「必ずこうなると言っただろう」というのも、平気で後出しジャンケンする・言ったもん勝ち・煽り炎上系・というヤバい人たちなので、こちらにもあまり耳を貸さず、近寄らない方が良いでしょう。
このように情報発信者を分類できるという点も、日本版ブラックマンデーで得られた有益な学びの一つだったと、前向きに捉えたいものです。