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統計を知ろう⑥産業経済統計

世の中には様々な仕事があり、日本一国をとってみても産業の裾野はとても広大です。
今回ご紹介するのは、そうした産業や国の経済に関する基本的な統計です。

私たち一人ひとりの家計からは少し距離のある話に思えるかもしれませんが、社会の状態を知ることは、結果として個人の家計行動に反映されるため、とても重要な情報と言えます。

むしろ、普段あまり馴染みがないものだからこそ、この機会に触れてみることで、世の中に対して視野を広げる良いきっかけになると思います。
そんな統計の主たるものを、ここから見ていきましょう。

仕事っていろいろ:経済構造統計と法人企業統計

まずは、経済構造統計です。

これは国内の全産業の事業所・企業活動における経済の構造を、全国及び地域別に知ることができる基幹統計です。

この統計は異なる4つの調査を基に作成されており、具体的には、5年ごとに実施される経済センサス(活動調査)を軸に、その中間年に実施される経済センサス(基礎調査)、経済構造実態調査、工業統計調査で構成されます。

調査対象は、経済センサスは基本的に全国の全ての企業や事業所(個人経営の農業など除外対象あり)で、工業統計調査と経済構造実態調査は一定規模以上の法人・事業所です。
これら4つの調査における項目は多岐に渡っており、法人・事業所名、事業所数、事業内容、所在地、電話番号、資本金額、従業者数、売上金額(全体・事業別)、費用項目・総額など、企業活動における主要情報を把握することができます。

例えば、2023年に公表された2021年実施の経済センサス(活動調査)からは、以下のような産業別の企業数・売上・付加価値の構成比率が分かります。

どの項目(3本の横棒グラフ)も第三次産業が、第一次・第二次産業を圧倒しています。
また、企業数や売上高は卸売業・小売業の比率が高い一方、純付加価値額は医療業・福祉業の比率が最も高くなっていることも読み取れますね。

なお、最下段の棒グラフ「純付加価値額」というのは、以下の計算式で導かれる「産業が生み出す価値」を表しています。

続いて、2023年経済構造実態調査のうち、集計結果を二つ見てみましょう。

これらは、それぞれ医療業(上)と映画館(下)の費用構成比率を表しています。
パッと見ただけでも、だいぶ中身が違っていますね。

特に給与総額に目を向けると、医療業にかかる費用では44.4%を占めている一方、映画館は10.1%と大きく異なっていることが分かります。

ここで、先ほどの準付加価値額の構成比の結果と計算式を振り返ってみましょう。
純付加価値額の計算式では給与総額が増えると純付加価値額も増加するので、もしかすると医療業が生み出す付加価値は、他の産業に比べて給与による寄与が大きいのかもしれない、と考えられないでしょうか?

こんなふうに複数のデータを並べてみると、面白い仮説を立てることができそうですね。

ちなみに、法人や企業については、経済構造統計とは別に、財務省が公表する法人企業統計(四半期ごと及び年次に調査実施)という基幹統計もあります。
これら経済構造統計と法人企業統計では母集団が異なっているため、企業の状況を本格的に調べたいという場合は、どちらの統計も参照した方が良いでしょう。

法人企業統計の詳細については割愛しますので、もし興味のある人は財務省ウェブサイトを覗いてみてください。

各産業の繋がりは?:産業連関表

続いては、産業連関表です。

ある産業が他の産業とどのように結びついているのか、その関係や相互に及ぼす影響を行列形式にまとめた基幹統計です。
調査は5年ごとに実施され、通常は1年間に行われた財・サービスの産業間における取引等を基に作成されます。

産業連関表のメインである行列形式の表は、数字だらけなので嫌になるかもしれないため、どうしても見たい人はこちらの総務省ウェブサイトでご確認頂きたいと思います。
ここでは比較的分かりやすい、「新たに発生した各産業の最終需要」が「自他の産業に及ぼす影響(生産活動に与える効果)」について、簡単にご紹介します。

この影響がどれほどになるかは、現時点(2024年8月末)での最新調査では以下の表として報告されています。

このグラフは産業ごとに細かく表示されていますが、かいつまんで言うと、全産業平均では約1.76倍(最上段の棒グラフ)の生産波及効果があり、特に波及効果が大きい産業として、輸送機械(自動車など)が約2.48倍、鉄鋼が約2.37倍と、どちらも日本を代表する製造業が上位にあることが見て取れます。

ちなみに、生産波及のデータに加え、産業連関表に含まれる別データ(部門別の中間投入 ※ここでは割愛)も参照すると、生産に必要な原材料や部品など「中間投入」の大きさが、「生産波及」の大きさに強く関係していることが見えてきます。

産業連関表は数字が多いため見づらい資料ですが、丁寧に確認してみると、いろんな産業が繋がりを持っていることが良く分かる、とても味わい深い統計であることが理解できます。

いずれにしても、ちょっと玄人好みな統計なので、個人としてはその存在だけ知っていれば十分で、興味ある人以外は見なかったことにして良いかも…という感じです。

GDPを知りたい:国民経済計算

最後は、国民経済計算です。

内閣府より公表される基幹統計で、日本の経済状況についてフロー面(生産・分配・支出や資本・投資の蓄積)とストック面(資産・負債・国富)を包括的に明らかにするものです。

さらに、国連が策定する国際基準に準拠した統計であるため、他国との間の国際比較を行うことができます。

国民経済計算は、様々な公的統計や行政記録に加え、民間の統計データも活用して作成されており、推計には先ほどの産業連関表が利用されています。

この統計の肝は、何と言ってもGDP(Gross Domestic Product:国内総生産)です。
GDPは四半期及び1年間で集計され、国民経済計算の中で報告されます。

GDPについては別の機会に解説したいと思いますので、ここでは最新結果のうち特筆すべきものを一つだけ、ご紹介します。

それは、名目GDPです。
2024年4-6月期の1次速報における四半期GDP実額は、名目値607.9兆円となり史上最高額を更新しました(2次速報にて607.6兆円に修正)。

これでようやく、アベノミクスで目標として掲げた「600兆円」の達成が確認できたわけで、名目GDPの観点からは、今の日本経済は「良い流れに乗っている」と言えるでしょう。

さらなる詳細は、内閣府の経済社会総合研究所ウェブサイトでご確認頂けます。

まとめ

というわけで、日本の産業に関する統計を見てきました。
これらは企業や法人が対象であり、その規模感も大きいことから、私たちの日常生活からは遠い存在に思える、というのが私の率直な感想です。

それでも、はじめにお伝えした通り、こうした統計があることを知る「良い機会」として、今回の内容を楽しんで頂けたら、とても嬉しいです。

世の中には色々な情報が溢れています。
そのため、自分に関係なさそうなものは、いちいち真偽を調べることなくメディアの発信を簡単に信じてしまいがちです。
場合によっては、不安を煽るような報道やSNSに惑わされて、正しいモノの見方ができなくなるかもしれません。
「なんだか怪しいな」と感じたときにこそ、公的統計などの一次情報を自らチェックして、誤りに陥る危険を回避することが大切になります。

私たちの家計にとって健全な行動を選択できるよう、世の中を曇りなく見るツールとして、様々な統計を活用していきたいですね。