長田FPオフィス

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リタイアメント後のお金の不安③

前回、リタイアメント後に備える資産形成手段として、先進国・米国株式への長期・分散投資が有力だと分かりました。

そうやって運用した結果、新たに形成された資産から収入を得るには、それを少しずつ取り崩していくことになります。
運用で増えているため、労働収入から貯蓄に回した分よりも、多額の資産を取り崩すことができますね。
そうなった場合、「どれだけのペースで、いくら取り崩していけばいいのか?」という難問にぶち当たると思います。

現役引退後の資産取り崩しは、失敗するとやり直しが困難なため、慎重に進める必要があります。
そこで、将来をイメージしやすくするために、具体的な数字を基にした取り崩しシミュレーションを見ていきましょう。

資産の取り崩し

ここで取り上げるのは、JPモルガン・アセット・マネジメントによるシミュレーションです。
前提条件として、

①65歳で現役引退
②現役時に蓄えた3000万円で運用資産を一括購入
③運用資産は65歳引退時に購入、その後は運用継続しつつ取り崩す
④取り崩しは毎月15万円定額

としています。

③について補足すると、具体的な資産購入時期はリーマンショック(世界金融危機)前の株価ピークになる1年前(2006年10月)です。
株価が最高値でも最安値でもない「平常の動きをしている状態」で購入した後に、大暴落している事例です。

このシミュレーションで想定するのは、現役引退後1年ちょっとで最悪の状態を迎える場合です。
つまり、「頑張って形成した資産が一気に目減りして、今後どうなるか分からない。不安で仕方ない」という、かなり危険な状態を再現したものです。
このくらい悪い状態を想定しておけば、現実世界で多少の下落に直面しても動揺せず運用を継続できるはず、というわけです。

それでは、シミュレーション結果です。

このグラフでは、運用方法ごとに、全資産を株式とする場合(緑色)、資産の半分を株式で残りを債券とする場合(青色)、現金のまま全く運用しない場合(黒色)の3つの推移を比較できます。
このグラフを詳しく見ていきましょう。

資産の寿命を延ばす

まず株式ですが、運用開始後すぐに約3500万円まで増えた残高が、金融危機を境に急降下し、2011年には約1000万円と1/3まで減少しました。
運用しない場合と比較すれば、残高は半分程度に落ち込んでいます。

具体的には、2011年10月31日時点、それまで定額で取り崩した分とは別に1000万円以上が「何もしないのに消えていった」ことになります。
私だったら、これには耐えられません。
おそらく株式を売り払って、運用を止めていたでしょう。

しかし、その後の残高推移をみていくと、増えたり減ったりを繰り返しつつ、概ね1500万円前後をキープしています。
また、2013-14年の間に運用しない場合を超えてから直近2023年3月31日時点まで、ほぼ目減りしていないので、このまま運用しながら取り崩しを継続できます。
一方、運用しない場合は、2023年3月に残高ゼロとなり取り崩しは終了するため、2023年4月以降は資産収入を得ることはできません。

つまり、株式として運用することで「資産の寿命が延びた」ことが分かります。
しかも、一括購入後の運用初期に大暴落したにもかかわらず、というのが驚きです。

また、資産を株式・債券の半々にした場合、残高の変動は株式100%より穏やかです。
ほとんどの期間で株式100%を超える残高(直近は逆転)で、資産寿命は同様に延びる、という結果がみられます。
そのため、この2つの資産運用については、「残高の変動幅を小さくしたいなら債券を組み入れた方がいいかも」という些細な違いはあるものの、結局あまり差はないと言っていいでしょう。

ここでは老後として16年ちょっとの期間しか見れませんが、実績を基にした事実という点に価値があります。
将来どうなるか分かりませんが、今後も似たような傾向が続くと仮定すると、毎月15万円取り崩しても、適切に運用すれば当面は資産は無くならないことになります。
冒頭の「どれだけのペースで、いくら取り崩していけばいいのか?」という疑問に対して、心強い示唆が得られたわけです。

このシミュレーションは、退職金を一括投資するような場面に応用できます。
ただし、実際の資産運用では、投資先の選定(先進国株式など優良資産へ分散)と運用期間(なるべく長期)に配慮しつつ、自身のリスク許容度に見合った規律ある運用(定額 or 低率取り崩し)を継続することが大切です。
安易な一括投資は思わぬ結果に繋がることもあるので、十分な検討が必要です。
資産を形成するための投資には、現役時代にコツコツ積み立てるスタイルもあるので、自身に合うやり方を見つけましょう。

いずれにしても、適切に運用すれば資産寿命を延ばせるという事実は、とても大きな安心に繋がりますね。
リタイアメント後のお金を考えると不安になってしまうなら、こうした事実を思い出して、今から前向きに備えていきましょう。