「老後に2000万円足りなくなる」ということを聞いたことはありますか?
いわゆる老後2000万円問題と呼ばれて、世間を騒がせましたね。
それがいったいどんな話だったのかを振り返り、本当に2000万円も足りなくなるのか、という重要ポイントをみていきましょう。
この話の始まり
この穏やかでない話、2019年に金融審査会市場ワーキング・グループが提出した報告の一部なんです<金融審議会「市場ワーキング・グループ」(第21回)議事次第:金融庁 >。
ここで試算した結果が衝撃的な数字だったため、当時のマスコミにこの点だけ切り取られてしまい、大きな社会問題として煽られるようになりました。
その結果、私も含め多くの日本人が不安を感じることになったのです。
インパクトの強い切り取り報道が先行して不安が拡大したため、最初に報告をした側(金融審議会)と、報告を受けた側(政府)ともに、国民への説明が不足して本来の意図が正しく伝わっていないと主張しましたが、時すでに遅し。
そのまま「2000万円足りない」という言葉だけが、独り歩きしていきました。
2000万円が不足する根拠は?(どうやって試算した?)
そもそもこの報告は、具体的に何を前提にして、誰を対象にして試算されたのでしょうか?
まず、前提となるデータの出所は総務省家計調査(2017年)です。
調査のポイント(条件)をまとめると、以下になります。
①高齢無職世帯:夫65歳以上、妻60歳以上の夫婦のみを対象
②上記夫婦が、現役引退後30年間を老後として生きる総収支を試算
その結果、「平均的な夫婦2人世帯では、老後30年間で2000万円の生活資金が不足する」という話が出てきました(内訳:約5.5万円/月 x 12カ月 x 30年)。
これが老後2000万円問題と呼ばれる理由です。
私は2000万円足りない人?
2000万円を試算した前提条件で注意したいのは、「平均的な」という言葉です。
現実の世界で「平均的な」という前提にピタリと当てはまる人は、おそらくいません。
リアルに存在する大勢の人のデータを統計した結果として、「平均的な」架空の人ができあがります。つまり、多くの方は「だいたい平均に近くなる」というだけです。
そういう意味で、誰もが2000万円足りなくなるわけではありません。
実際は、使い切れない程お金があって全く不足しない人もいれば、もっと(3000万円とか)足りなくなる人もいます。
これは個人の保有資産と支出(生活費)のそれぞれが、人によって千差万別だからです。
そのため、「私の場合どうなるんだ?」と疑問をお持ちになられた際は、2000万円という数字のインパクトに怯まず、まずはご自身の資産と支出のバランスを、簡単でいいので比較してみることをお勧めします。
ちなみに、2021年の家計調査を基に同じ条件で試算した場合、毎月約1.9万円の赤字になるそうです。
すると、老後30年間の不足額は約680万円に減少し、「老後680万円問題」へ緩和されます。
コロナ禍で外出せず支出が減ったとか、様々な要因はあると思いますが、いずれにしても、家計調査の実施年によって金額に大きなバラツキが出ることが分かりました。
基にするデータを変えれば、不足額が減少するどころか「不足しない」という状態もあり得るわけです。そして、基にするデータというのは、ご自身の資産と支出に他なりません。
このことを知っておくだけで、これから先も出てくるであろうメディアで独り歩きする数字に振り回されなくなります。
老後に必要な額を知り、将来の不安に苛まされない「心穏やかな」今を生きましょう!