資産運用に興味のある人なら、ドルコスト平均法という言葉を、一度は目にしたことがあるかもしれません。
例えば金融機関や政府によるNISAの説明では、一般的に積立投資が推奨されています。
そして、推奨理由の一つとして、ドルコスト平均法が挙げられているわけです。
たいていの場合、ドルコスト平均法については、どれも分かりやすく説明されている反面、読み手に誤解を与えそうな内容も少なくありません。
おそらく、説明スペースが限られている(足りない)という都合があるのでしょう。
というわけで今回は、積立投資と切っても切り離せないドルコスト平均法について、説明のスペースを気にすることなく、誤解されがちな点を分かりやすく解説したいと思います。
積立投資
はじめに積立投資について、簡単におさらいしましょう。
積立投資は、その名の通り定期的に元金を積み立てる(増やしていく)投資スタイルです。
その主な手法は、定時定額積立になります。
「定時」というのは、例えば「毎月1日」など決まった期日に積み立てることで、「定額」とは積立金額が一定(例えば1万円)のことを意味します。
これらを合わせることで「毎月1日に1万円を積み立てる」という、とてもシンプルな投資になるわけです。
こうして定時定額で積立投資を継続していくと、積み立ての実行タイミングで購入できる数(株式だったら株数、投資信託だったら口数)が変化します。
すると、それに合わせて平均購入単価(投資した元金総額を保有株(口)数で割った資産評価額)も変化していきます。
ある時点における保有資産の平均購入単価が、その時点での株価や基準価額より低い(安い)場合は保有資産に含み益がある状態で、反対に株価などより高い場合は含み損となっている状態ですね。
ドルコスト平均法とは?
このように積立投資では、平均購入単価の変化が運用成績に大きく影響してきます。
この平均購入単価に着目したのがドルコスト平均法で、その説明の多くは、平均購入単価を計算して割安感を見せることで、積立投資のメリットを伝えるという内容になっています。
具体的には、こういう感じです。
ある投資信託に対して、元金総額4万円を元手に4ヶ月間、毎月初1万円を定時定額で積立投資するとします。
ここで、初回投資時点での基準価額は1万口あたり1万円で、最後(4ヶ月目)の基準価額も同額の1万円とし、運用途中(2ヶ月目、3ヶ月目)の基準価額だけが異なるパターンAとBをシミュレーションしてみましょう。
それぞれ4ヶ月間運用した結果が、以下になります。
Aの平均購入単価は1万円、保有口数は合計4万口、最終損益はプラスマイナスゼロでした。
基準価額がずーっと一定なので、一括投資したのと同じになりますね。
一方Bですが、基準価額が2ヶ月目に2万円、3ヶ月目に0.5万円と乱高下した結果、最終的に平均購入単価は0.89万円(8,889円)に低下して、最終損益は約0.5万円のプラス(利益)となりました。
AもBも毎回1万円を投資していますが、Bが2ヶ月目に買える口数は基準価額の上昇によって0.5万口まで減少し、逆に3ヶ月目は基準価額の下落により2万口へと増加しています。
その結果、Bの保有口数は合計4.5万口となり(Aの4万口より0.5万口多い)、多く買えた分が利益になったというわけです。
Bは、投資開始時の基準価額より終了時の平均購入単価が低下したことが、積立投資の利益として運用結果に反映された事例であり、その場合におけるドルコスト平均法の効果が見て取れるわけですね。
ドルコスト平均法の誤解
先ほどの例では、ドルコスト平均法によって平均購入単価を低く(安く)できました。
多くの場合、これをそのまま伝えて「積立投資は良い」と結論しています。
でもこの論理、ちょっと結論を急ぎすぎなんです。
というのも、これはドルコスト平均法の誤解が独り歩きした早とちりだからです。
一体何が誤解かと言えば、ドルコスト平均法は「平均購入単価を低くする」という点です。
分かりやすくするために、先ほどのシミュレーションに、途中(2ヶ月目、3ヶ月目)の基準価額が異なるパターンCを追加してみましょう。
上記グラフのオレンジ色の点線がCです。
Bとの違いは、3ヶ月目の基準価額が0.8万円と若干高めになっていることだけです。
たったそれだけなのに、Cの平均購入単価は1.07万円(10,667円)まで上昇し、その結果、最終損益は約0.25万円のマイナス(損失)となってしまいました。
最初と最後の基準価額は1万円で同額なのに、今度は積立投資したら損しちゃいました。
「あれ?ドルコスト平均法は?」と、何だかモヤモヤしますよね。
とはいえドルコスト平均法は、Cでもちゃんと効いています。
その証拠に表の数字を見ると、毎回積立投資した後の平均購入単価は、その月の基準価額に応じて変化していることが確認できます。
ただし、最初の基準価額より「低く」なってはいません。
その代わり、積立投資の度に平均購入単価の振れ幅が小さくなって「平準化」されていく、ということが見て取れます。
実はこれこそが、ドルコスト平均法の正しい解釈なんです。
誤解と正解
それでは、ここまでの内容を整理しておきましょう。
ドルコスト平均法は平均購入単価に着目した積立投資の特徴の一つですが、誤解されやすい説明が少なくありません。
そこで、その誤解と正解を書き出して比べてみると、このようになります。
誤解:平均購入単価を低く(安く)する
正解:平均購入単価を平準化する
言葉にすると大した違いはなさそうに思えますが、実際は先ほどのパターンBとCのように、運用結果がプラスかマイナスかという決定的な差に繋がるため、正しく理解しておくことがとても重要になります。
もっと言えば、この違いを分かっているかどうかが、積立投資の成否を左右してきます。
現実に資産運用を継続していくうえでは、弱気相場や暴落に見舞われることもあります。
時には長期に渡って保有資産の評価額が下げ続けることもあるでしょう。
そんな状況でドルコスト平均法を誤解したままだと、Cのような時に「ドルコスト平均法が良いなんてウソじゃないか!」と不信が頂点に達し、そこで積み立てを止めてしまったり、最悪の場合はこれまで継続してきた資産運用自体を止めてしまうことになりかねません。
そうなったら元の木阿弥どころか、将来のために資産を増やそうとした当初の志が全て無駄になってしまいます。
極端に聞こえるかもしれませんが、資産運用においては、最後は精神論(メンタルを穏やかに維持すること)が最も重要になります。
もし、評価額の下落(損失が拡大する局面)に耐えられず投げ売りしてしまえば、さらなる下落という恐怖からは解放されますが、その時点で損失が確定し、資産運用は失敗に終わることになります。
ドルコスト平均法を正しく理解していれば、例え評価額の下落が続いて一時的に辛くても、積立投資へ不信感を抱くことはないはずなので、相場が回復するまで我慢して資産を保有し続けることができるでしょう。
というわけで、今回のお話はここまでです。
次回は、別パターンのシミュレーションも交えながら、どんな場合に利益や損失になるのかイメージを膨らませてみたいと思います。
資産運用を成功に導くために、ドルコスト平均法の理解を、さらに深めていきましょう。