何かのタイミングでお金が入用になり、いくらかを直系尊属から贈与してもらう場合には、通常そのお金は贈与税の対象になります。
ただし、家を買ったり学校で学んだりする資金に対しては、贈与税を非課税にする措置が、特例として設けられています。
将来の生活に直結するお金に関して、こうした制度が用意されているのは、たとえ期限付きであってもありがたいものです。
ちなみに直系尊属とは父母や祖父母などを意味しますが、実際の贈与(資金援助)では主に祖父母が想定されます。
つまり「おじいちゃん・おばあちゃんから孫へ贈る、人生を豊かにするお金」、それが非課税になる特例があるわけですね。
今回は、そんな愛情いっぱいな制度を3つ、ご紹介します。
小難しいテクニックを使って節税するよりも、今ある制度を正しく利用すれば、とても良い形で家族のために資産を有効活用できます。
これらを知ることで実生活にも活かして頂きたい、という期待を込めて説明していきます。
なお、どの制度も税制改正により、当初設定の期限が延長されています。
ここでは、2024年8月末時点の最新情報に基づき、延長後の期限を記載しています。
教育資金
まずは学費などに充当することを目的とした、教育資金の一括贈与を受けた場合の贈与税の非課税制度(特例)です。
教育資金は、誰にとっても確実に(少なくとも義務教育では)必要となるお金ですね。
教育資金を直系尊属から贈与してもらうと、以下の非課税の恩恵を受けられます。
【上限額】1,500万円(学校以外は500万円まで)
【受贈者】30歳未満
贈与前年の合計所得1,000万円以下
【贈与期限】2026(令和8)年3月31日
【使途】学校の費用(授業料、入学金、受験料、修学旅行費、給食費など)
学校以外の費用(塾、野球クラブ、ピアノ教室など)
通学や留学の交通費など
例えば、文科省の「令和3年度子供の学習費調査」によると、幼稚園から高校までの15年間では、約574万円(全て公立)~約1,838万円(全て私立)と、幅はあるものの学費だけでも多額の資金が必要です。
学費に加えて学校以外の習い事や大学への進学も含めて考えると、この特例の非課税上限額いっぱいまで利用しても、贈与だけでは足りない、という人が出てくるかもしれませんね。
なお、教育資金として使いきれなかった分(贈与者が死亡した場合も含む)や、別の用途に使用した分は、原則として通常の贈与税(相続税)の課税対象となりますが、それによって税制上で何か不利になることはありません。
こうした事情を総合的に考えれば、この制度は可能な限り利用した方が良い「お得な」ものと言えるでしょう。
ここでは様々な例外や細かい条件の説明は省略しているので、もっと詳しく知りたい人は、国税庁のウェブサイトを参照してくださいね。
結婚・子育て資金
続いては、家族が増えて幸せを感じるとともに必要になるお金に係る、結婚・子育て資金の一括贈与を受けた場合の贈与税の非課税制度(特例)です。
人生の大きな節目を迎えた人にとって、心強い味方になってくれるものです。
結婚・子育て資金を直系尊属から贈与してもらうと、以下の非課税の恩恵を受けられます。
【上限額】1,000万円(結婚資金は300万円まで)
【受贈者】18歳以上50歳未満
贈与前年の合計所得1,000万円以下
【贈与期限】2025(令和7)年3月31日
【使途】結婚の費用(挙式・披露宴費、新居家賃、転居費など)
子育ての費用(不妊治療費、出産費、産後ケア費、ベビーシッター代、子の医療費、保育所費など)
例えば、リクルートの「ゼクシィ結婚トレンド調査2023」によると、結婚関連の費用額は、全国平均で約327万円となっており、かなりの出費が見込まれます。
もしこれに充てる贈与を受けられれば、その後の新婚生活に回せる資金を確保できますね。
さらに幼年期の子育てについても同様に、贈与を受けた分から必要な費用を賄っていけば、その間に自身の収入を原資として貯蓄を築くことが可能です。
特に収入に比べて支出が多くなりがちな若年層にとっては、この制度を利用することによる「将来のお金に対する不安を和らげる効果」は大きいと言えるでしょう。
こちらも細かいことは省いているので、詳細確認は国税庁のウェブサイトでお願いします。
住宅資金
最後は、多くの人にとって人生で一番大きな買い物になるであろう、住宅取得等資金の贈与を受けた場合の贈与税の非課税制度(特例)です。
住宅の種類や広さ、居住の条件、新築・取得か増改築かなど、利用に際しては様々な要件を満たす必要があるため、ここでは最も基本的なものに絞って、シンプルにお伝えします。
この資金を直系尊属から贈与してもらうと、以下の非課税の恩恵を受けられます。
【上限額】1,000万円(省エネなど)、500万円(それ以外)
【受贈者】18歳以上
贈与年の合計所得2,000万円以下
【贈与期限】2026(令和8)年12月31日
【使途】住宅の新築や取得(増改築含む)
例えば、住宅金融支援機構の「2022年度フラット35利用者調査」によると、新築住宅の取得に要した資金は、マンションで約4,848万円、土地付注文住宅で約4,694万円でした。
非課税の上限額まで贈与を受けられれば、取得費の2割程度を賄えることになります。
これにより、自己資金が少ない人でも、住宅ローン返済の負担軽減が図れます。
特に、返済期間が長くなればなるほど「利払い総額」は大きくなっていくので、返済中だけでなく返済後の家計も圧迫することになります。
そうした負担をなるべく抑えるためにも、この特例はぜひ活用したい制度だと言えます。
注意点として、人によっては、所得税の住宅借入金等特別控除(いわゆる住宅ローン控除)について適用を受けられない場合もあるため、実際に利用を検討する際は予め良く確認しておきましょう。
こちらの制度は特に細かい条件が多いので、国税庁のウェブサイトで詳細確認されることをおススメします(ちょっと複雑なので、分かりづらいかも知れませんが)。
まとめ
今回の3つの制度(特例)は、贈与税の暦年課税や相続時精算課税制度と併用可能です。
金融機関や税務署での手続きを要しますが、どれも使い勝手の良いものになっています。
そうしたこともあり、私としては、これら3つの特例が恒久化されることを望んでいます。
もちろん、適用対象となる範囲や上限額など詳細条件については固定せず、世の中の情勢に合わせて変化させるべきだと思います。
それでも特例自体は、将来世代のためにも、今後の税制改正において延長され続けることを願うばかりです。
誰にとってもいずれ訪れる相続は、人生において避けることのできないイベントです。
相続する人だけでなく、それを受ける人も、家族みんなが幸せを感じられるよう、長期的な視野を持って、こうした制度を上手に活用していきたいですね。