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子や孫へ上手に資産を残す③贈与まとめ

贈与の仕組みを上手に活用すれば、親から子へ、子から孫へとバトンを渡しながら、世代を越えて資産形成することができます。
そうした観点から、前回までに暦年贈与相続時精算課税制度、それぞれの概要を説明してきました。

今回はこれらのメリット・デメリットを整理して、最も効果的な利用方法をご紹介します。
そして最後に、とても大切なことをお伝えしたいと思います。

というわけで、早速見ていきましょう。

贈与制度の比較

暦年贈与と相続時精算課税制度のメリット・デメリットを比較しやすいように、以下の通りまとめてみました。

暦年贈与

【メリット】
 ・利用に際して手続き不要
 ・贈与者・受贈者とも制限は無い(誰でも利用できる)
 ・基礎控除として毎年110万円まで非課税(相続財産への加算も無い)
 ・基礎控除の範囲内の贈与であれば確定申告は不要

【デメリット】
 ・定期贈与にならないよう、毎年個別に贈与契約を締結しなければならない
 ・相続開始前7年以内の贈与は、生前贈与加算の対象として相続財産に加算

相続時精算課税制度

【メリット】
 ・特別控除として累計2,500万円まで贈与時は非課税
 ・特別控除の累計額を超えた分は、20%定率で贈与税として一旦課税、相続時に相続税として精算(既納付額が本来の納付税額を超過している分は還付)
 ・基礎控除として毎年110万円まで非課税(相続財産への加算も無い)
 ・基礎控除の範囲内の贈与であれば確定申告は不要
 ・特別控除は基礎控除が適用された残額に対して適用、基礎控除の範囲内であれば特別控除の枠は消費されない

【デメリット】
 ・一度選択すると、その特定贈与者からは暦年贈与を受けられない
 ・贈与税の確定申告期限までに相続時精算課税選択届出書を提出しなければならない(提出しないと暦年贈与のまま)
 ・相続時の評価額が贈与時より低くなると、相続税の負担は増加

一見すると暦年贈与の方が簡単に利用できてハードルは低そうですが、生前贈与加算というコントロールの難しい要素があり、当初計画の通りにならない懸念が残ります。

この懸念を踏まえると、届出書を提出するのが手間だとしても、基礎控除が新設された相続時精算課税制度の方が使い勝手は良い、と言えるでしょう。

なお、暦年贈与においては、孫への贈与について注意点があります。
それは相続人の死亡などで孫が代襲相続人となった場合、相続開始前7年以内の贈与は、生前贈与加算の対象になってしまうことです。

例えば、祖父から孫へ基礎控除の範囲で暦年贈与している期間に、本来の相続人である子(孫の父)が祖父より先に亡くなって、その後に祖父の相続が発生、というケースです。

本来、孫は祖父の相続人ではないので、暦年贈与された分は生前贈与加算の対象外でした。
しかし、子の代襲相続が発生することで、孫が祖父の相続人(代襲相続人は相続税の法定相続人)になるため、相続開始前7年以内の分は生前贈与加算の対象に変わってしまいます。

つまり、祖父の相続において相続財産(相続税を算出する基準額)が増えてしまい、納付すべき相続税が発生(増加)する可能性があるわけです。
滅多にないケースかもしれませんが、孫への贈与を検討する際は、気に留めておくと良いですね。

最も効果的な利用

前回は、相続時精算課税制度を利用すれば、世代間の資産移転が効率的にできることを説明しました。
今回は、その効率を最大化する方法をお伝えします。

前提として、父・母の両親ともに健在で、子は両親それぞれから贈与を受けることを想定します。
この場合、暦年贈与と相続時精算課税制度を別々に利用することで、非課税で資産移転することができます。
子世代は、税負担無く資産を丸ごと承継できるため、その時点でキャッシュフローは大幅にプラスになり、そこから有利に資産運用を進められます

具体的には子を受贈者として、両親のうち一方(父)を特定贈与者とする相続時精算課税制度と、他方(母)を贈与者とする暦年贈与を併用して、贈与予定の財産が全て受け渡されるまで、以下の通り継続していきます。

暦年贈与と相続時精算課税制度の併用

①初年度:2,720万円
 【内訳】110万円(父:基礎控除の上限)+110万円(母:基礎控除の上限)
  +2,500万円(父:特別控除の上限)を一括
②翌年から毎年:220万円
 【内訳】110万円(父:基礎控除の上限)+110万円(母:基礎控除の上限)

子が毎年受けられる基礎控除に目を向けると、最初から合計220万円になっていますね。
実はこれが、両制度を併用して得られる最大のメリットになります。

実は、令和5年度税制改正によって新設された相続時精算課税制度の基礎控除は、別の贈与者からの暦年贈与の基礎控除とは「別枠」で適用されます。
つまり、このように併用すれば基礎控除の上限を220万円(2倍)まで引き上げることが可能なんです。

例えば、この方法で現金の贈与を5年間続ければ、累計3,600万円を全額非課税で親から子へ資産移転できます。

その移転した現金を原資として、子のNISA口座で年平均利回り5%の投資信託へ毎月30万円(毎年360万円)積立投資し、最短5年でNISA枠(1,800万円)を埋めてしまいましょう。

こうしてNISA口座で30年間運用したシミュレーションが、以下のグラフになります。

【贈与された資金でNISA利用】
 投資条件:毎月30万円(毎年360万円)を積立

 投資期間:40歳から5年間、その後は増額無し

 運用期間:70歳まで30年間

 投資総額:1,800万円(NISA上限)

➡最終価額:6,917万円

➡運用利益:5,117万円

(非課税額:1,023万円

ご覧の通り運用結果は、70歳時点で資産価額6,917万円でした(千円以下を四捨五入)。

贈与財産3,600万円の使途は、NISA口座の上限1,800万円まで充当するルールを守れば、残額は何に使ってもOKです。
特定口座で運用しても、現金のまま預金しても、生活費や家族旅行などレジャーに使っても構いません。

ここでは子は、1,800万円をNISA口座で運用しただけですが、残額をiDeCoの資金に回せば、さらに非課税の恩恵を受けることも可能です。
そして、子世代が夫婦二人で、それぞれの両親から贈与を受け、この方法を活用できれば…
皮算用かもしれませんが、子世代の資産は倍以上に膨らんでいきそうですね。

資産運用のシミュレーションは参考にすぎませんが、制度自体は今日から現実に利用できる「確実なもの」です。
「私には関係ない」と無視せずに、一度検討してみる価値はあると思えてきませんか?

贈与や相続で最も大切なこと

というわけで、贈与を利用して資産移転すれば、相続よりも有利に資産形成できることを、三回に渡って見てきました。
この話の最後に一つだけ、とても大事なことをお伝えしたいと思います。

これまでお金に関するテクニカルな内容に焦点を絞ってきましたが、実は贈与や相続で一番大切なのは「心」、つまり当事者同士の「気持ち」なんです。
そんなの当たり前と思われるでしょうが、テクニックばかりに目が行くと、案外おろそかになりがちです。

家族のために残した財産を巡って、金銭面では上手に対策できたとしても、感情面で嫌な思いをしてしまえば、何だか台無しですよね。
いっそのこと全部寄付した方が幸せだった、ということになりかねません。

家族の誰もが、そんな悲しいことは望まないはずです。
あげる側も貰う側も、最後は互いに「ありがとう」という感謝の気持ちでいたいものです。

家族みんなが納得できるように、お金より気持ちを重視して良く話し合う、結局これを忘れずにいることが、生きているうちに贈与を上手く使うカギであり、世代を越えた資産形成を成功させる秘訣と言えるでしょう。