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子や孫へ上手に資産を残す②相続時精算課税

相続と贈与には密接な繋がりがある、ということを前回お伝えしましたが、それを目に見えて表している制度があります。

それは、相続時精算課税制度と呼ばれる贈与の形態です。
贈与税の制度の中に「相続」という言葉がそのまま入っていることから、相続と贈与が強く繋がっていることが分かりますね。

この制度は、令和5年度税制改正によって使い勝手が大きく向上したため、今後の利用増加が期待されています。

というわけで今回は、相続時精算課税制度がどういうものか知ることで、資産形成への活用方法を探ってみましょう。

相続時精算課税制度

まず、相続時精算課税制度という名前が長いので、ここから支障無い場合は「同制度」と表記します。

率直に言って、同制度は若干ややこしいです。
とはいえ要は、贈与税と相続税を相続時にまとめて精算する、名前の通りの制度です。
まずそれだけ覚えて頂ければ、ここからは「ちょっと複雑だね」程度の理解で十分です。

というわけで、同制度の説明に移ります。
具体的には、こういう仕組みです。

同制度を利用した贈与では、一定額までの贈与財産は課税が猶予され、それ以上の額があれば定率(20%)で贈与税を計算し、一旦納税します。
そして贈与者の相続が発生した際に、その相続財産と先ほどの贈与財産の合計額を基に相続税を計算し、そこから一旦納付していた贈与税があればそれを差し引いて、最終的に相続税として納税します。

利用できる人には制限があり、贈与の発生した年の1月1日時点で、特定贈与者(同制度での贈与者)は60歳以上受贈者は18歳以上の直系卑属(子や孫など)です。

また、同制度にかかる特定贈与者からは暦年贈与を受けられなくなりますが、同制度を利用しない別の贈与者からは引き続き暦年贈与を受けられます。

…どうでしょう、ややこしいですよね?
ここまでの説明は、本格的に利用を考えている人以外は、忘れてもOKです。
ただし、次の注目ポイントだけは、忘れないで頂きたいです。

それは、同制度を利用する受贈者に対して、特定贈与者ごとに累計2,500万円の特別控除と、毎年110万円の基礎控除が適用される点です。
特に基礎控除は今回の改正の目玉と言えるものなので、詳しく見ていきたいと思います。

相続時精算課税制度の税制改正

同制度における控除のうち、特別控除2,500万円は、改正前後で何も変わっていません。

一方、改正前に無かったのが基礎控除110万円です。
改正により、毎年使える特典として基礎控除が新設されたことで、2024年1月から同制度は格段に利用しやすくなりました。

まず、この基礎控除額以下の贈与財産は相続財産との精算対象にはならず、特別控除の残額に影響しません(従来は少額でも精算対象だった)。
つまり、同制度の受贈者が特別控除2,500万円の枠を消費するのは、贈与財産のうち毎年110万円を超える分だけ、ということです。

贈与が基礎控除以下であれば、特別控除の残額は上限2,500万円のままで、さらに暦年贈与の場合と同じく贈与税は発生しないため、確定申告も不要です。

また、暦年贈与と違い、同制度では生前贈与加算はありません
例えば、同制度の受贈者が、特定贈与者の相続開始7年前から毎年100万円の贈与を受けていた場合、毎年受け渡される贈与財産は基礎控除額を超えていないので、相続時において相続財産へ加算せずに済みます。
つまり、7年間の贈与合計700万円には、最終的に贈与税も相続税も課税されないわけです。

これが暦年贈与だった場合、相続時には生前贈与加算が適用され、700万円のうち600万円が相続財産とみなされることになります(控除は100万円のみ)。
当事者としては同じ贈与のつもりでも、税制面でかなり大きな差が生じてきますね。

相続時精算課税制度の注意点

暦年贈与と同様に、同制度で注意しておきたい主なものを、四つ挙げておきます。

一つ目は、同制度を利用するためには、適用を受けたい贈与税の確定申告期限(贈与の翌年の3月15日)までに、相続時精算課税選択届出書を提出する必要があることです。
提出を忘れた場合、その贈与は暦年贈与となってしまいます。

二つ目として、同制度の利用を選択すると、以後それが適用される特定贈与者からは、暦年贈与を受けることができなくなります(暦年課税に戻せない)。
改正で利用しやすくなったとはいえ、選択するかどうか良く考える必要があります。

三つ目は、価額が変動する財産(株式や不動産など)の贈与を受けてそのまま保有する場合、相続時の評価額が贈与時より低くなってしまうと税負担が増加します。
相続時に、贈与財産を相続財産として精算する際は、贈与時の評価額を基準にして計算するためです。

四つ目は、同制度の基礎控除は、受贈者につき毎年110万円が上限ということです。
つまり、二人以上の特定贈与者から贈与を受けたとしても、1年間を通じた基礎控除額の上限は110万円のままです。
110万円を超える贈与の場合、超えた分は特別控除の対象になりますが、特定贈与者ごとに按分されて2,500万円の枠が消費されます。

最後の四つ目は分かりづらいので、補足しますね。
例えば、父と母が特定贈与者で、二人からそれぞれ110万円ずつ(合計220万円)贈与を受けるとします。
この場合、受贈者である子は、まず基礎控除を110万円の上限まで受けることができます。
さらに、それを超える残額110万円に対しては、特定贈与者ごとに55万円ずつ(二人で合計110万円)特別控除を受けられる、という二段階の計算になるわけです。

このように予め注意すべき点はありますが、上手に利用すれば、世代間の資産移転を有利に進めることができます
続いて、そのことを見ていきましょう。

相続対策より資産活用という視点が大事

世間では、相続税を節税するための「相続対策」と称する方法が、数多く存在しています。

相続は誰にとっても発生するイベントなので、なるべくなら税金は少なくしたいですよね。
贈与の利用もその一つの手段で、特に改正後の相続時精算課税制度は、生前贈与加算を気にする必要がなくなったため、相続対策の有力候補と言えます。

一方、前回ご紹介したように、実際に相続税が課税される相続人は約1割にすぎません。
つまり、贈与の利用は、相続対策ではなく「資産の有効活用」という視点で検討した方が、より現実的と言えそうです。

というわけで、相続時精算課税制度の最もシンプルで効率的な活用法をご紹介します。

まず、特定贈与者からの贈与財産は現金とします。
そして、それを金融商品(優良なインデックスファンドなど)の購入資金に充て、NISAなど税制優遇を活かしつつ、長期で資産運用を行います。
同制度の利用は、贈与予定の財産が全て受け渡されるまで、以下の通り継続していきます。

相続時精算課税制度による贈与

①初年度:2,620万円
 【内訳】110万円(基礎控除の上限)+2,500万円(特別控除の上限)を一括
②翌年から毎年:110万円(基礎控除の上限)

初年度はNISA枠の上限を超えるので、超えた分は特定口座で運用しても、翌年の準備資金として預金しても、どちらでも構いません。
翌年以降は毎年NISA口座を上限まで使い切って、元本を増やしていきます。

こうして最短5年でNISA枠を埋めた後は、10年単位の心構えで長期投資を継続しましょう。
将来に渡って各種制度が改悪されない限り、世代を超えた超長期の運用が、非課税で可能になります。

以下のグラフは、親世代から子世代へ、長期に渡り計画的に(先ほどの方法通り)贈与することで、どれだけの財産を非課税で移転できるか視覚化したものです。

このグラフで控除合計として描かれている直線が、贈与による非課税額の累計になります。

例えば、父から子への贈与の場合、期間を10年とすれば3,600万円、20年では4,700万円もの財産を非課税で贈与できます。
子は、このうち1,800万円までNISA口座で運用できますが、さらに残額があればiDeCoの資金に回すことも可能です。

結論として、長期的な視点で見れば、実際に子が非課税で運用できる金額は、1,800万円以上になるわけです。
これは、決して無視できない金額だと言えますね。

複雑な仕組みの投機や、規制の網をくぐるような節税は、負担すべきリスクや労力に比べて期待した成果が得られないことも多いです。
資産形成においては、そうした割に合わないことに手を出す必要はありません。
それよりも、贈与のような誰でも利用できる制度を正しく理解して、シンプルかつ再現性のある方法ではじめてみることを、強くおススメしたいです。