前回は日本と米国の実績に基づき、投資ではタイミングを計らない方が良いことをお伝えしました。
現時点で既に投資(資産運用)を継続している人には、安心できる内容だったと思います。
一方、これから資産運用をはじめたい人にとっては、「結局いつスタートすればいいのか?」という疑問が残ったままです。今回はその答えを得るために、いくつかシミュレーションをしていきます。
投資タイミングはいつが良いのか、結論を出してみようと思います。
なるべく早くはじめること
投資の本質である長期運用を実現するには、「時間」が必要です。
そして、その時間を作る方法は二つしかありません。
一つは長生きしてゴール時点を遠くすること。
もう一つは早くはじめてスタート時点を近くすることです。
このうち、自らの意思で容易にコントロールできるのは、後者の方です。
そんなの当たり前だと言われそうですが、このことをはっきり認識するのは、資産運用においてとても大切なんです。
なぜかと言うと、実はここに「投資タイミングに関する答え」が隠れているからです。
スタート時点を近くするためには、なるべく早く投資をはじめた方が良いわけで、それはつまり「はじめようと思った時がベストタイミング」ということに他ならないからです。
スタートの遅れは挽回できる?
ここまでの話からすれば、これから資産運用したい人も「タイミングを計るより、さっさとはじめた方が良い」わけですが、本当にそうでしょうか?
というわけで念のため、数字を見ながら確かめてみましょう。
ここでは同級生のAさんとBさん二人が、それぞれ資産運用する場合を考えます。
前提として、二人ともNISA口座で同じ金融商品に投資、スタート時点はBさんよりAさんの方が若く(早く投資をはじめて)ゴール時点は二人とも同じ年齢、という条件を設定します。
以前と同じくウエルスアドバイザーのシミュレーターを使用して、全部で三つのシミュレーションを行います。
いずれも「先に投資をはじめたAさん(40歳で開始)に、Bさん(50歳で開始)の資産運用は追い付くことができるのか?」、その検証を目的とします。
Bさんがスタートの遅れを挽回できたかどうかは、ゴール時点(80歳)の資産価額で判断します。
それでは、一つ目のシミュレーションを見ていきましょう。
まず二人が運用する資産は、年平均利回り10%の投資信託とします。
それぞれの運用条件と、その結果のグラフが、以下になります(上:Aさん、下:Bさん)。
【Aさん条件(年平均利回り10%)】
スタート:40歳
ゴール :80歳
運用期間:40年
投資期間: 5年
投資金額:50万円/年
※累計250万円
※対象商品を年初に一括購入
【Bさん条件(年平均利回り10%)】
スタート:50歳
ゴール :80歳
運用期間:30年
投資期間:30年
投資金額:50万円/年
※累計1,500万円
※対象商品を年初に一括購入
80歳時点の運用結果は、Aさんは投資期間5年(投資総額250万円)資産価額9,036万円、一方のBさんは投資期間30年(投資総額1,500万円)資産価額8,664万円でした(千円以下を四捨五入)。
Aさんに比べ6倍もの投資期間(投資総額)を使ったBさんでしたが、結局Aさんに追いつくことはできませんでした。
Aさんが投資信託を買っていたのは40歳からたった5年間(年初に5回)、はじめるのがBさんより10年早かっただけです。
投資に使った時間と金額を考えれば、Aさんの方が圧倒的に効率的と言えるので、なるべく早くはじめた方が良いことが示されました。
利回りが変わるとどうなる?
先ほどのシミュレーションを見て「10%の利回りは高くないか?」と、疑問を持たれた人もいらっしゃると思います。
確かに投資信託にしては、なかなか良い数字ですよね。
スタートの遅れに対して、利回りの影響も気になります。
というわけで、利回りが低い場合どうなるかを、二つ目のシミュレーションとして見てみましょう。
ここで二人が運用する資産は、年平均利回り5%の投資信託とします。
2024年3月1日時点で米国10年債利回りが4.2%程度なので、5%はほどよい数字と言えます。
それ以外の条件は一つ目と同じに据え置いて計算した結果が、それぞれ以下のグラフになります。
【Aさん条件(年平均利回り5%)】
※利回り以外は変化無し
【Bさん条件(年平均利回り5%)】
※利回り以外は変化無し
ご覧の通り、Aさんより投資期間が長い(投資元本が多い)Bさんの方が、ゴール時点の資産価額は大きくなりました。
つまり、利回りが低ければ、スタートが遅れても積立投資を継続することで追いつける、と言えます。
とはいえ、Aさんのように早くはじめて長く運用した方が、資金効率が良いことに変わりありません。
というのも、このシミュレーションにおける元本成長は、Aさん約6倍(250万円➡1,565万円)、Bさん約2倍(1,500万円➡3,411万円)だったからです。
利回りが高くないことを考えると、この資金効率の違いは注目に値するでしょう。
現実的な条件で比較
ここまでに分かったことは、はじめるなら早い方が良いけど、利回りが低ければスタートの遅れを挽回できそう、というものでした。
ただし、AさんとBさんの投資条件には、極端な差がありました。
Aさんは45歳までの5年間で投資元本250万円、Bさんは80歳までの30年間で投資元本1,500万円でしたね。
最後のシミュレーションでは、もう少し現実的な数字を使って比べてみようと思います。
Aさんはこれまでと同じですが、Bさんの投資期間を50歳から定年退職の60歳まで(10年間)に短縮してみます。
また、運用期間を通じた平均利回りは8%とします。
この利回りは、投資対象を米国の代表的な株価指数S&P500と想定したうえで、長期的かつ保守的に評価した数字になります。
S&P500指数の年末終値を用いて、2023年から過去10~40年の期間を試算した年平均利回りは、以下のようになります。
これらは配当金を含んでいないため、本来の配当込み運用利回りはもっと高くなります。
実際に資産運用する際は、指数に連動する投資信託(インデックスファンド)や上場投資信託(ETF)を取引することになります。
そこから得られる配当金を再投資して、長期に渡って投資を続ければ、利回りは複利の効果で大きく向上していきます。
もちろん取引手数料や為替の影響を受けることになりますが、そうした要素を考慮しても、8%くらいの運用利回りは、控えめながら現実的な数字とみなして良いでしょう。
それでは、運用条件と結果を見てみましょう。
【Aさん条件(年平均利回り8%)】
※利回り以外は変化無し
【Bさん条件(年平均利回り8%)】
スタート:50歳
ゴール :80歳
運用期間:30年
投資期間:10年(定年退職まで)
投資金額:50万円/年
※累計500万円
※対象商品を年初に一括購入
結果は、先にスタートしたAさんの圧勝でした。
これは、例えば次のように解釈すると、現実味を帯びて理解できると思います。
50歳の時に同窓会に参加したBさんは、Aさんから資産運用の話を聞き、自分も将来に備えようと一念発起して、投資をはじめました。
それから30年後の同窓会、80歳になって再開した二人が、改めて資産運用の話をしました。
当初、Bさんはこう考えていました、「あれから30年も投資し続けた。間違いなく自分の資産価額の方が上だろう」と。
しかし、現実は逆でした。
こうしてAさんの方が上だったという事実を前に、Bさんは「時間」が持つ絶大なチカラを、まざまざと思い知ることになりました。
いかがでしょうか?
なるべくなら、Bさんと同じ思いはしたくないですよね。
果報は寝て待て
前回から今回にかけて、投資で資産形成したいなら「なるべく早くはじめた方が良い」かつ「タイミングを計らない方が良い」、それぞれを実際のデータとシミュレーションを通じて見てきました。
将来の利回りはどうなるのか?何歳まで運用を続けられるのか?そうした私たちの思い通りにならないことが、資産運用においては数多く存在します。
人それぞれに、異なる条件を受け入れなければなりません。
しかし、誰にとっても時間だけは平等に進んでいきます。
優良な資産の場合、時間を味方につけることができれば、運悪く天井掴みしてしまっても、いつの間にかプラスになっているものです。
早いうちに投資をはじめて資産の種をまくことができたなら、あとは運用で成長していくのを待ちましょう。
長い間には不作の年もあり、マイナスに沈む時が来るかもしれませんが、大丈夫。
暴落や弱気相場という雨風に耐えたその先には、大きく育った果実を収穫できる日が、必ず訪れるものなんです。