FPによるファイナンシャルプランニングを知って頂くために、これまで数回に渡ってケーススタディをご紹介しました。
そのまとめとして、今回は45歳の男性に対してコンサルティングを行います。
いわゆる晩婚の事例です。
シミュレーションをしてみると、25歳や35歳の場合とは大きな違いがあることにお気付き頂けます。
その違いを通して、資産形成の大切さが分かる、そんな内容になっています。
45歳のプロフィール
それではライフプランを確認しましょう。
45歳の彼は2024年(今年)に42歳の女性と結婚しました。
仕事では管理職として責任ある立場で、多少ストレスは感じるものの、病気一つしていない健康体です。
お金については、収入を全て使い切っているため貯蓄はありませんが、かなり余裕のある生活です。
また、結婚を機に無駄遣いは止めており、現在は公私ともにとても充実しています。
彼のプロフィール・ライフイベントの詳細は以下になります。
その他の詳細条件は、以前の記事の最後にまとめた「共通する基本条件」を開くとご覧頂けます。
職業:会社員(就職23歳、退職65歳)
年収:820万円(45歳時点)
退職金:2,000万円(65歳一括受取)
年金受給開始:65歳(年金変動あり)
家族:配偶者(現時点の年齢42歳)、子供2人(予定)
配偶者の職業:現在は会社員(年収600万円)で2024年末に退職(退職金800万円)
➡43歳から専業主婦
➡50歳からパート年収120万円(退職60歳、賞与・退職金無し)
住宅:結婚年に購入(4,500万円)
※諸経費込、100%世帯主名義
※親からの資金援助無し
※団体信用生命保険加入
※住宅ローン控除対象認定住宅
住宅ローン:フラット20
※元利均等年利2%固定
昇給率:2.5%(年率)
生活費変動率:2.0%(年率)
現実を知る
これまで同様、現在の状態と、このままの現状を維持すると将来どうなるかを把握するために、お金の動きを具体化してみます。
今回の条件で作成したCF表を、以下のグラフにしました。
一つ目は収支バランス、二つ目は資産残高です。
一つ目のグラフからは、65歳を境に異なる傾向を見て取れます。
まず現役時代(65歳まで)の単年収支は、黒字の額と年数が多く問題ありません。
一方、リタイアメント後(66歳から)は、その傾向が逆転して赤字の額と年数が多くなっています。
しかも赤字の額(マイナス方向に伸びる棒グラフの長さ)は、黒字の額(マイナス方向に伸びる棒グラフの長さ)より明らかに多い(棒が長い)です。
さらに二つ目のグラフを見れば、状況がより鮮明になります。
現役時代の蓄えは70歳で底を付き、それからしばらく資産残高はプラスとマイナスを行き来してから、85歳で車購入と住宅修繕の特別支出が発生すると、その後は家計が破綻してしまいます。
つまり、老後を生きる資金が足りなくなります。
最も危ない老後
これまではあえて触れませんでしたが、現役時代に資金が不足しても案外何とかすることは可能です。
それは、国の教育ローンや奨学金制度でお金を借りたり、前回ご紹介した親からの暦年贈与や教育・結婚・子育て資金の一括贈与を受けたりと、金利や税制が優遇される資金調達の手段があるからです。
それらの手段を利用して債務を抱えたとしても、子供が独立した後は生活資金に余裕が生まれるため、その分を返済に回すことができるでしょう。
こうして、多少のことなら銀行などの貸金業者に頼らなくても、やり繰り可能なんです。
もちろん、自力で乗り切るのが一番ですけどね。
そのような事情も踏まえたうえで、これまでの事例(25歳、35歳)と比べてみると、実は今回の事例が一番危険な状況だと言えます。
今回はこれまでと異なり、現役時代は資産残高プラスで問題なく過ごせてしまうため、老後しばらくして残高がマイナス転落することに「気付く」のが難しいです。
上記のようにCF表を作って視覚化してみなければ、老後資金が不足するという事態を想像できないでしょう。
そして現役引退後は労働収入が無くなるため、気付いた時には既に手遅れになっているはずです。
つまり、老後に人生が詰んでしまうわけです。
これこそが、最も避けたい老後問題です。
以前の記事で「老後2,000万円問題」に触れましたが、問題となる金額は人それぞれです。
そこで今回のCF表の数字(二つ目のグラフの基データ)を確認したところ、彼にとっては「老後1,700万円問題」ということが分かりました。
改善対策を練る
彼の「老後1,700万円問題」に対しては、70歳を過ぎても資産残高プラスを維持することが課題になります。
というわけで、対策を考えていきましょう。
先ほど見てきたように現役時代は問題ない一方、リタイアメント後の生活に必要な資金を、現状より厚くしなければなりません。
ファイナンシャルプランニングとしては、従来通り無理ない範囲で節約と収入アップを優先します。
それを具体化したものが、以下の改善案になります。
対策①生活費を7%(2万円/月)削減
世帯主25歳26.9万円➡24.9万円
対策②配偶者50歳からの収入を増やす
年収120万円➡180万円
※パート(賞与・退職金無し)
※仕事の負担は増加する
この効果を分析するために、現状を維持した場合(改善前)と対策した場合(改善後)、それぞれの資産残高推移をグラフにしました。
改善前のグラフは、先ほどの二つ目のグラフと同じものです(資産残高のマイナス・プラスを色分けして、住宅ローン残高の情報を削除しました)。
ご覧の通り70歳を過ぎても資産残高プラスを維持できており、彼の「老後1,700万円問題」に対しては、十分効果のある改善案だと言えます。
もう一つの改善対策
さて最後にNISAを利用して資産運用したらどうなるかを、ご紹介したいと思います。
先ほどの改善案と同じく生活費は節約しますが、配偶者の仕事はそのままで、それでも資産残高に余裕を残せるようにしてみましょう。
対策③生活費を7%(2万円/月)削減
世帯主25歳26.9万円➡24.9万円
対策④夫婦ともNISAで資産運用する
積立年額:12万円(月額1万円)
積立期間:夫婦とも各60歳まで
※世帯主45歳、配偶者50歳から
運用利回り:年率4%
※夫婦とも各65歳から2.5%
棒グラフが三色になっていますが、積立投資と積立終了後の運用は、NISA口座(世帯主)とNISA口座(配偶者)で行っています。
夫婦ともに、積立期間中(各60歳まで)は年平均利回り4%の堅実な投資信託を、毎月1万円定額で購入し、各65歳以降は利回り2.5%のさらに堅実な商品に乗り換えて、運用のみ継続しています。
老後資金を枯渇させないためには、生活費のインフレ上昇分を上回るような資産運用が重要です。
一連のシミュレーションではインフレ率を2%としていますので、利回り2.5%なら十分です。
配偶者の仕事負担を増やして資産運用しない場合(一つ目の改善案)と比べれば、85歳から先の老後資金に厚みが増しており、先々まで安心して見通せることが分かります。
まとめ:FPを上手に活用しよう
2024年3月現在、30年に及ぶデフレに慣れてしまった日本では、資産運用の有用性はまだ実感しづらいかもしれません。
しかしこれから先、経済状態が正常化していくにつれて、健全なインフレ(物価上昇)は当たり前になってきます。
そうした世の中の流れに取り残されないよう、今からしっかり備えておきたいところです。
今回までにファイナンシャルプランニングの実践例として、25~45歳のシミュレーションをご覧頂きました。
それ以外にも、住宅関連の資金繰り検討、子供の教育資金の準備、加入している保険内容の分析、万が一の際の必要資金の試算、相続を踏まえた親子世代向け提案など、お金に関して相談者が直面する課題は数多く存在します。
FPは、そういった個別課題を整理し、様々な要素を包括したコンサルティングを行います。
そのうえで相談者に合ったファイナンシャルプランニングを作成し、それを基に最適な提案をすることになります。
将来のお金の不安から解放されることが叶えば、今より前向きで豊かな人生が開けます。
そんな生き方を実現するために、お金の専門家であるFPを「私だけの総合コンサルタント」として積極的に活用してみましょう。