今回はiDeCoを「年金」で受け取る場合を取り上げます。
受け取り方やタイミングによって税額に違いが生じることを、シミュレーションを通じてご覧頂きます。
お得な受け取り方は?
一時金で受け取る場合と比べたら?
シミュレーション結果を基にした考察も加えましたので、一緒に考えていきましょう。
シミュレーションの設定
今回は、iDeCo以外の退職金(以下、退職金と表記します)を受け取る年齢と、iDeCoで作った年金(以下、iDeCo)の受け取りを開始する年齢、これらの違いによる税額の違いを試算しました。
年金は、受け取り開始から10年間支給される確定年金とします。
前回より条件が少し複雑ですが、以下のシミュレーション(合計5つ)になります。
パターンD:退職金の受け取りとiDeCoの受け取り開始が同時
パターンE:iDeCoの受け取り開始が先、退職金の受け取りはiDeCoの給付期間内(いつでも)
パターンD:退職金の受け取りとiDeCoの受け取り開始が同時
パターンF:iDeCoの受け取り開始が先、退職金の受け取りはiDeCoの給付期間内(65歳時)
パターンG:iDeCoの受け取り開始が後
退職金は退職所得として退職所得控除、iDeCoは公的年金等雑所得として公的年金等控除、それぞれの適用対象です(こちらの④を参照)。
税額の詳しい計算方法は割愛しますので、ご興味ある方は、国税庁の所得税率、退職所得、公的年金等雑所得の説明を、それぞれご参照願います。
どちらの所得も、控除を適用した後の数字がゼロ以下になる場合は、所得ゼロとみなして非課税になります。
ここで、iDeCoで運用した資産を61歳で受け取り開始する場合の最終(運用)価額は、60歳で受け取る場合と同額とします。
また、退職金は受け取り年齢によらず2,000万円に固定し、退職金とiDeCo以外の所得は無いものとします(公的年金は受給期間が重複しないよう繰り下げ)。
試算結果は、百円以下を四捨五入して表記します(足し算の結果が合計と一致しない場合あり)。
それでは、各パターンの結果を見てみましょう。
事例①会社員
60歳退職時の条件は、退職金:2,000万円(退職時勤続35年)、iDeCo:529.6万円(加入期間15年)です。
「60歳で退職金、60-69歳でiDeCo」
(60歳)
【退職金とiDeCo(年金)】
退職所得控除:1,850万円=800万円+{70万円×(35年-20年)}
※勤続年数で計算
➡退職所得:75万円=(2,000万円-1,850万円)×1/2
公的年金等控除:60万円
➡雑所得 :0万円=529.6万円/10年-60万円
➡所得小計:75万円=75万円+0万円
➡所得税額:3.8万円
➡住民税額:7.5万円
➡税額小計:11.3万円
(61~69歳)
【iDeCo(年金)】
公的年金等控除:60万円(65歳から110万円)
➡雑所得 :0万円=529.6万円/10年-60(110)万円
➡所得税額:0万円(非課税)
➡住民税額:0万円(非課税)
➡税額小計:0万円(非課税)
※毎年非課税
=======================
➡税額合計:11.3万円…①-D
「61~69歳いずれかの年で退職金、60~69歳でiDeCo」
(61~69歳で退職金を受け取った年)
【退職金とiDeCo(年金)】
退職所得控除:1,850万円=800万円+{70万円×(35年-20年)}
※勤続年数で計算
➡退職所得:75万円=(2,000万円-1,850万円)×1/2
公的年金等控除:60万円(65歳から110万円)
➡雑所得 :0万円=529.6万円/10年-60(110)万円
➡所得小計:75万円=75万円+0万円
➡所得税額:3.8万円
➡住民税額:7.5万円
➡税額小計:11.3万円
※退職金を受け取った年のみ課税
(60~69歳、ただし上記の年は除く)
【iDeCo(年金)】
公的年金等控除:60万円(65歳から110万円)
➡雑所得 :0万円=529.6万円/10年-60(110)万円
➡所得税額:0万円(非課税)
➡住民税額:0万円(非課税)
➡税額小計:0万円(非課税)
※毎年非課税
=======================
➡税額合計:11.3万円…①-E
事例②自営業
60歳退職時の条件は、退職金:2,000万円(退職時勤続35年)、iDeCo:1,800.8万円(加入期間15年)です。
「60歳で退職金、60-69歳でiDeCo」
(60歳)
【退職金とiDeCo(年金)】
退職所得控除:1,850万円=800万円+{70万円×(35年-20年)}
※勤続年数で計算
➡退職所得:75万円=(2,000万円-1,850万円)×1/2
➡公的年金等控除:60万円
➡雑所得 :120.1万円=1,800.8万円/10年-60万円
➡所得小計:195.1万円=75万円+120.1万円
➡所得税額:9.8万円
➡住民税額:19.5万円
➡税額小計:29.3万円
(61~64歳)
【iDeCo(年金)】
公的年金等控除:60万円
➡雑所得 :120.1万円=1,800.8万円/10年-60万円
➡所得税額:6万円
➡住民税額:12万円
➡税額小計:18万円
※毎年課税
(65~69歳)
【iDeCo(年金)】
公的年金等控除:110万円
➡雑所得 :70.1万円=1,800.8万円/10年-110万円
➡所得税額:3.5万円
➡住民税額:7万円
➡税額小計:10.5万円
※毎年課税
=================
➡税額合計:153.8万円…②-D
「65歳で退職金、60-69歳でiDeCo」
(60~64歳)
【iDeCo(年金)】
公的年金等控除:60万円
➡雑所得 :120.1万円=1,800.8万円/10年-60万円
➡所得税額:6万円
➡住民税額:12万円
➡税額小計:18万円
※毎年課税
(65歳)
【退職金とiDeCo(年金)】
退職所得控除:1,850万円=800万円+{70万円×(35年-20年)}
※勤続年数で計算
➡退職所得:75万円=(2,000万円-1,850万円)×1/2
➡公的年金等控除:110万円
➡雑所得 :70.1万円=1,800.8万円/10年-110万円
➡所得小計:145.1万円=75万円+70.1万円
➡所得税額:7.3万円
➡住民税額:14.5万円
➡税額小計:21.8万円
(66~69歳)
【iDeCo(年金)】
公的年金等控除:110万円
➡雑所得 :70.1万円=1,800.8万円/10年-110万円
➡所得税額:3.5万円
➡住民税額:7万円
➡税額小計:10.5万円
※毎年課税
=================
➡税額合計:153.8万円…②-F
「60歳で退職金、61-70歳でiDeCo」
(60歳)
【退職金】
退職所得控除:1,850万円=800万円+{70万円×(35年-20年)}
※勤続年数で計算
➡退職所得:75万円=(2,000万円-1,850万円)×1/2
➡所得税額:3.8万円
➡住民税額:7.5万円
➡税額小計:11.3万円
(61~64歳)
【iDeCo(年金)】
公的年金等控除:60万円
➡雑所得 :120.1万円=1,800.8万円/10年-60万円
➡所得税額:6万円
➡住民税額:12万円
➡税額小計:18万円
※毎年課税
(65~70歳)
【iDeCo(年金)】
公的年金等控除:110万円
➡雑所得 :70.1万円=1,800.8万円/10年-110万円
➡所得税額:3.5万円
➡住民税額:7万円
➡税額小計:10.5万円
※毎年課税
=================
➡税額合計:146.3万円…②-G
年金で受け取る場合のまとめ
ここまで年金で受け取った場合の税額を試算しましたので、補足情報とともに結果をまとめます。
まず一時金の場合と異なり、会社員と自営業で受け取りパターンの設定に差を付けました。
これは公的年金等控除に関する条件(額と年齢)によって税額に違いが生じるため、その点が埋もれないよう見て頂こうと考えたからです。
会社員のiDeCoが年金の場合(①-D、①-E)を見ると、退職金とiDeCoのどちらを先に受け取っても税額は同じでした。
さらに自営業の場合(②-D、②-F、②-G)も合わせると、退職金とiDeCoを受け取る順番は税額にあまり影響しないことが分かります。
これは退職金とiDeCo(年金)で、所得に対する控除が別々に適用されるからです。
つまり、こういうことです。
一時金の場合は退職金とiDeCoを合わせた1つの所得(退職所得)に対して1つの控除(退職所得控除)でした。
一方、年金の場合は退職金とiDeCoの2つの所得(退職所得と公的年金等雑所得)に対して個別に2つの控除(退職所得控除と公的年金等控除)が適用されるので、控除の数が増えた結果その額も大きくなったわけです。
次に自営業の3パターンを比べると、公的年金等控除が64歳まで(60万円)と65歳以降(110万円)で大きく異なることが、税額に効いているのが分かります。
年金の場合、受け取り開始を遅らせる(65歳以降の控除を最大限活用する)のが良さそうです。
このように年金での受け取りは、一定期間に渡って公的年金等控除を活用できるため、例えば退職金の額が退職所得控除の額を大きく超える人や、大きな金額を一括で入手するのは不安という人にとって、適していると言えます。
上手に受け取ることができれば、一時金よりも税額を抑えることができますね。
ただし注意点があります。
一時金と異なり、年金を受給している期間は(公的年金等の)雑所得が増えることになり、それに応じて社会保険料(国民健康保険料)も増える可能性があります。
最終的に手元に残る金額という観点からすれば、所得に対する控除だけでなく国民健康保険料の負担増も考慮しなければならないので、一時金と年金のどちらが得なのか試算するのは、かなり複雑になります。
そのためiDeCoの受け取り方において、一時金と年金のどちらが良いのかは、人によってケースバイケースという色が濃くなり、絶対的な正解はないと言えます。
今回の結果を通じて、「iDeCoを利用して自分で年金を作ってみる」ことをイメージ頂けたでしょうか?
次回は「一時金と年金の組み合わせ」という受け取り方にも触れ、これまでのシミュレーションを整理したいと思います。