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iDeCoで作る自分退職金

現役時代にiDeCoを利用して運用した資産は、受け取る時にどう優遇されるのでしょうか?

実はiDeCoに関しては、これが最もややこしい話になります。
なぜなら、iDeCoで形成した資産の金額に加えて、その受け取りの方法とタイミング、さらにそれ以外の退職金、場合によっては公的年金の受け取り条件、と様々な要因が絡んでくるからです。

とはいえ、リタイアメント後に一番気になるのは、iDeCoで作った資産を「いかにお得に受け取るか」、この一点に尽きると思います。

さて、こちらの表は以前見て頂いたものです。
受け取り時(給付時)には、「一時金(退職金)」「年金」「それらの組み合わせ」という3パターンの受け取り方法がありましたね。

このうち今回は、iDeCoを退職金とみなす「一時金」を選択した場合、受け取るタイミングによって税額に大きな違いが生じることをご覧頂きます。

シミュレーションの設定

具体的には、前回の2つの事例を基に、iDeCo以外の退職金(以下、退職金と表記します)とiDeCoで作った退職金(以下、iDeCo)と、それぞれ受け取る年齢による税額の違いを試算しました。
以下のシミュレーション(合計6つ)になります。

事例①会社員で…
事例②自営業で…

パターンA:同時に受け取る
パターンB:iDeCoを後で受け取る
パターンC:iDeCoを先に受け取る

退職金およびiDeCoともに、退職所得として退職所得控除の適用対象です(こちらの④を参照)。

税額の詳しい計算方法は割愛しますので、ご興味ある方は、国税庁の所得税率退職所得の説明をご参照願います。
なお、退職所得控除を適用した後に退職所得の数字がゼロ以下になる場合は、所得ゼロとみなして非課税になります。

ここで、iDeCoで運用した資産を61歳で受け取る場合の最終(運用)価額は、60歳で受け取る場合と同額とします。
また、退職金は受け取り年齢によらず2,000万円に固定し、退職金とiDeCo以外の所得は無いものとします。
試算結果は、百円以下を四捨五入して表記します(足し算の結果が合計と一致しない場合あり)。

それでは、各パターンの結果を見てみましょう。

事例①会社員

60歳退職時の条件は、退職金:2,000万円(退職時勤続35年)、iDeCo:529.6万円(加入期間15年)です。

受け取りパターンA
「60歳で両方」

(60歳)
【退職金とiDeCo】
 退職所得控除:1,850万円=800万円+{70万円×(35年-20年)}
  ※勤続年数とiDeCo加入年数のうち長い方で計算
➡退職所得:339.8万円={(2,000万円+529.6万円)-1,850万円}×1/2
➡所得税額:25.2万円
➡住民税額:34万円
=================

税額合計:59.2万円…①-A

受け取りパターンB
「60歳で退職金、61歳でiDeCo」

(60歳)
【退職金】
 退職所得控除:1,850万円=800万円+{70万円×(35年-20年)}
  ※勤続年数で計算
➡退職所得:75万円=(2,000万円-1,850万円)×1/2
➡所得税額:3.8万円
➡住民税額:7.5万円
税額小計:11.3万円

(61歳)
【iDeCo】
 退職所得控除:0万円
  ※上記の退職金で全額適用済み
➡退職所得:264.8万円=529.6万円×1/2
➡所得税額:16.7万円
➡住民税額:26.5万円
税額小計:43.2万円
=================

税額合計:54.5万円…①-B

受け取りパターンC
「60歳でiDeCo、65歳で退職金」

(60歳)
【iDeCo】
 退職所得控除:600万円=40万円×15年
  ※iDeCo加入年数で計算
➡退職所得:0万円=(529.6万円-600万円)×1/2
➡所得税額:0万円(非課税)
➡住民税額:0万円(非課税)
税額小計:0万円(非課税)

(65歳)
【退職金】
 退職所得控除:1,850万円=800万円+{70万円×(35年-20年)}
  ※勤続年数で計算
➡退職所得:75万円=(2,000万円-1,850万円)×1/2
➡所得税額:3.8万円
➡住民税額:7.5万円
税額小計:11.3万円
=================

税額合計:11.3万円…①-C

事例②自営業

60歳退職時の条件は、退職金:2,000万円(退職時勤続35年)、iDeCo:1,800.8万円(加入期間15年)です。

受け取りパターンA
「60歳で両方」

(60歳)
【退職金とiDeCo】
 退職所得控除:1,850万円=800万円+{70万円×(35年-20年)}
  ※勤続年数とiDeCo加入年数のうち長い方で計算
➡退職所得:975.4万円={(2,000万円+1,800.8万円)-1,850万円}×1/2
➡所得税額:168.3万円
➡住民税額:97.5万円
==================

税額合計:265.8万円…②-A

受け取りパターンB
「60歳で退職金、61歳でiDeCo」

(60歳)
【退職金】
 退職所得控除:1,850万円=800万円+{70万円×(35年-20年)}
  ※勤続年数で計算
➡退職所得:75万円=(2,000万円-1,850万円)×1/2
➡所得税額:3.8万円
➡住民税額:7.5万円
税額小計:11.3万円

(61歳)
【iDeCo】
 退職所得控除:0万円
  ※上記の退職金で全額適用済み
➡退職所得:900.4万円=1,800.8万円×1/2
➡所得税額:143.5万円
➡住民税額:90万円
税額小計:233.5万円
==================

税額合計:244.8万円…②-B

受け取りパターンC
「60歳でiDeCo、65歳で退職金」

(60歳)
【iDeCo】
 退職所得控除:600万円=40万円×15年
  ※iDeCo加入年数で計算
➡退職所得:600.4万円=(1,800.8万円-600万円)×1/2
➡所得税額:77.3万円
➡住民税額:60万円
税額小計:137.3万円

(65歳)
【退職金】
 退職所得控除:1,850万円=800万円+{70万円×(35年-20年)}
  ※勤続年数で計算
➡退職所得:75万円=(2,000万円-1,850万円)×1/2
➡所得税額:3.8万円
➡住民税額:7.5万円
税額小計:11.3万円
=================

税額合計:148.6万円…②-C

退職金として一時金で受け取る場合のまとめ

ここまで一時払い(退職金)で受け取った場合の税額を試算しましたので、補足情報とともに結果をまとめます。

まず会社員・自営業ともに、受け取り時の退職所得と退職所得控除の差が最も大きい①-A・②-Aが最大の税額に、その差が最も小さい①-C・②-Cが最小の税額になりました。

また受け取りの順番も影響しており、iDeCoを先に受け取る①-B・②-Bより、後で受け取る①-C・②-Cの方がお得でした。
これは退職所得控除のルールによるものですが、計算は面倒です(詳細はこちら)。
ただ要点はシンプルで、退職所得控除を最大限活用したいなら「iDeCoの受け取りが先なら退職金は5年後から」「iDeCoが後なら退職金は20年後から」受け取るべき、ということです。
なので、これだけ覚えていれば十分です。
前者は実現できそうですが(①-C・②-C)、後者は現実的には難しそうです(iDeCoは60歳にならないと受け取れないので、その20年後に退職金というのは…)。

なお、本来は退職金が無い人(例:勤務先に退職金制度が無い、自営業で特に準備していない、専業主婦(主夫))にとって、iDeCoを利用することは資産形成に有利に働く可能性があります。
それは、受け取る資産に対して、退職所得控除を適用できるようになるからです。
特に、①-CのiDeCoのように非課税となる場合を想定すれば、利用し甲斐はありそうですね。

こんなふうに受け取る条件によって、様々な結果が得られることが分かりました。
「iDeCoを利用して自分で退職金を作ってみる」そのイメージを膨らませるために、今回の内容を参考にして頂ければ嬉しいです。