前回は全体像を俯瞰したかったため、詳細は飛ばしてOK(興味があれば表を見て)という前提で、iDeCoに①加入して②拠出した掛金を③運用して④受け取る、という一連の流れをお伝えしました。
制度自体の説明に終始したので、つまらない内容でしたが、これからは面白い話に移ります。
誰もが気になる「iDeCoって、どれだけお得なの?」という話題です。
まずは、制度を利用する目的である税の優遇がどんなものなのか、詳しく見ていきましょう。
税の優遇
前回チラッと触れましたが、拠出時と運用中と受け取り時に、それぞれ税の優遇があります。
具体的には、こちらの表をご覧ください。
これくらい整理されていると、見やすくて良いですね。
この表で「非課税」や「○○控除」と記載されているものが税の優遇になります。
税とは具体的には、所得税と個人住民税(以下、住民税)のことです。
「○○控除」を適用すると、税金を算出する際の「課税所得」を少なくできるため、結果として納税額を抑えられます。
つまり、iDeCoを利用すると「所得税と住民税がお安くなります」というわけです。
それではここから、加入から受け取りまでの優遇内容について、もう少し詳しく説明していきます。
なお、iDeCo+は会社が掛金を上乗せしてくれる制度ですが、ここでは取り上げませんので、ご興味ある方はこちらをどうぞ。
①加入時
制度に加入した段階は、まだ何もありません。
実際に掛金の拠出(投資)をスタートした人が優遇されます。
②拠出時
iDeCoで拠出した掛金は、全額が「小規模企業共済等掛金控除」という所得控除の対象になります。
この所得控除を適用することで課税所得が少なくなり、所得税と住民税が軽減されます。
軽減の仕方は、所得税は当年分が現金で還付され、住民税は翌年分の税額が減少します。
軽減額は課税所得によって変わりますが、例えば課税所得400万円(会社員だと年収800万円前後)の場合、所得税(20%)と住民税(10%)を合計して7.2万円が軽減されます(復興特別所得税は含まず)。
ただし、税が軽減されるのは本来の納付金額が上限なので、それを超えた分は軽減されません。
もしiDeCoによる税の優遇が10万円と試算されても、本来納付する税金が6万円なら差額の4万円は還付されない、というわけです。
上限はあるものの掛金を拠出(投資)する度に所得控除が大きくなり、拠出を継続していれば基本的に毎年優遇を受けられます。
そのため、最も身近にお得を感じられる優遇と言えます。
③運用中
投資した金融商品に運用益があっても課税されません。
売却していない(途中で売却できない)ため利益が実現しておらず含み益のままなので、運用中に課税されないのは当然です。
またiDeCoでは配当金は自動的に再投資に回されますが、この配当益にも課税されません。
このように運用中は完全に非課税になるので、税金の支払いは一切考えなくて良いです。
ちなみに、運用中の積立金は本来、特別法人税(積立金に対して1.173%)の課税対象ですが(2024年1月28日現在は課税停止中)、これは無視してOKです。
「いつか停止が解除されるかも?」などと気にしても不安になるだけなので、思い切って忘れてしまいましょう。
④受け取り時(給付時)
原則60歳になると、これまで運用して増えた資産を受け取ることができます。
受け取り方法は、退職金扱いになる一時金(退職所得)と、年金(公的年金等雑所得)と、双方の併給の、3パターンがあります。
税の優遇として、所得を計算する際にそれぞれ以下の控除を適用できます。
一時金 ➡退職所得控除
年金 ➡公的年金等控除
併給 ➡上記控除の併用
これらの控除は、②拠出時と同じく課税所得を少なくできる効果があります。
受け取り時の所得税と住民税は、場合によっては非課税になりますが、基本は軽減後の税額が課税されます。
巷でiDeCoの是非が問われる場合、実はここが最も意見が分かれるところになります。
というのは、受け取り方によって税の優遇に大きな差が出るからです。
このことは重要かつ複雑な話なので、次回以降に事例を用いて検証していこうと思います。
税制優遇のまとめ
iDeCoの加入から受け取りまでに受けられる税の優遇を整理すると、以下になります。
全体を通して見た場合、iDeCoのイメージは「NISAを利用して配当金再投資型の投資信託を運用して、資産が増えたら売却する」という投資に近いです。
ただし、NISAには拠出時の軽減が無いので、ここだけ切り取ってしまえばiDeCoの方が有利です。
一方、売却時(受け取り時)には、もしかするとiDeCoの方が不利になる可能性があります。
特に運用して損が出ている場合は、泣きっ面に蜂になるかもしれません。
実際は長期運用を前提に積立投資するので心配しなくてもいいのですが、ちょっと面白いので補足としてお伝えします。
仮に、資産が減った状態で売却(損切り)したとします。
その場合、NISAでは課税されませんが、iDeCoでは損しているうえに課税されることがあります。
なぜかというと、売却による所得の種類に違いがあるからです。
NISAだと譲渡所得ですが(売却益があると本来課税されますが、NISAでは利益も損失も無かったものとみなされ譲渡所得ゼロ=非課税)、iDeCoだと退職所得や公的年金等雑所得になるからです(売却で実現した利益や損失には関係なく、受け取る資産に対して課税)。
なんだか不思議な感じですよね。
iDeCoを利用して実際こうなったらややこしいですが、幸い現実味は薄いので、忘れてしまって問題ありません。
次回からは、iDeCoを利用する場合のシミュレーションをしていきます。
実際に数字を見ながらイメージを膨らませてみましょう。