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資産運用のお手本:日本の年金基金GPIF③

このシリーズの最初の記事で、GPIFの運用は「成功した資産家が辿り着く最も安定した王道スタイル」であることを、お伝えしました。

これは、ある程度の資産を形成し終えた人が、その後もインフレ負けせず資産を守り続ける(あわよくば増やす)、ということをイメージしたものです。

とはいえ、その堅実な運用スタイルは、「投資は怖い」「元本保証でなければ嫌だ」といった理由で、なかなか資産形成をはじめられない人にこそ、うってつけの方法なんです。

というわけで、GPIFの運用は「私たちにもできる投資なのか?」、検証していきましょう。

個人はマネできるのか?

まず、GPIFの運用実績について、おさらいのため表にまとめてみます。

【2022年度業務概況書より】

資産総額:200兆1,328億円
年利回り:3.59%(実質平均値)
運用期間:2001~2022年度(継続中)
基本ポートフォリオ:国内株式25%・外国株式25%・国内債券25%・外国債券25%

これらのデータを見て、「あれ?簡単にマネできそう」と、お気付きになった人は鋭いです。

ポイントは、この表から資産額を除いて、残り三つを改めて眺めてみるところにあります。
残った条件は、年利回り3.59%で株と債権を国内外で半々ずつ(1/4ずつ)、20年以上の長期運用をするだけです。

どうでしょう、これなら私たち一般人でも十分できそうな気がしませんか?

理屈のうえでは、投資金額を小さくして(100万~1,000万分の1くらいの規模)、GPIFと同じ金融資産を買付け、全体の構成割合を等しくすれば、ミニチュア版GPIFという運用スタイルの完成です。
これは検証する価値がありそうですね。

ありがたいことに、GPIFの保有する銘柄は、全て公式ウェブサイトに公開されているので、そこからエクセルファイルをDLすれば誰でも閲覧できるようになっています。

ただし、その数は株式だけでも数千銘柄と膨大なので、ここでの検証用に取り上げるのは、国内外それぞれにつき時価総額トップ10のみとします。
そのリストが以下になります。

どちらもトップ10には、お馴染みの大企業が並んでいます。
外国株式は全て米国企業で、5・6位のALPHABET INCは、多くの人がネット検索でお世話になっているGoogle社のことです。

どうでしょう、これだけ見ると、ますますマネできそうな気がしてきませんか?

…でも、かなり鋭い人は気づいたはずです、「これは無理だ」と。

現実的な考察

なぜ無理なんでしょうか?
ちょっと込み入った話になるので、GPIFの保有する国内株式を基に考えてみましょう。

先ほどのリストを確認すると、国内株式の時価総額は合計49兆7,093億円で、そのうちトップ10銘柄の合計は9兆4,682億円、割合にすると19%なので約2割を占めることになります。

一方、銘柄数は全部で2,312なので、トップ10の割合はわずか0.4%です。

さらにエクセルファイルをDLして詳細を確認してみれば、時価総額の8割をカバーするには、保有銘柄数を上位218まで拡大しなければならないことが分かります。

国内株式は100株から購入できるので、先ほどのリストでトップ10の株価を上から順に逆算していけば(※時価総額を株数で割ります)、たとえばトップ3だけをピックアップすると、購入可能な金額は次のようになります。

【1位】トヨタ自動車
 ➡190,800円(1,908円×100株)
【2位】ソニーグループ
 ➡1,202,500円(12,025円×100株)
【3位】キーエンス
 ➡6,460,000円(64,600円×100株)

つまり、トップ3を最低数で保有するには、780万円以上の資金が必要ということですね。

これをトップ10まで広げると、必要資金は1,200万円以上になります。
同様に、上位218銘柄(全体の8割)を100株ずつ買おうとすれば、1億円以上の資金が必要になってきます。

それに加えて、ポートフォリオの構成割合をGPIFに近付けようとすれば、上位銘柄ほど多く保有しなければなりません。
このように、マネする精度を高めれば高めるほど、必要資金は際限なく膨らんでいくことになるわけです。

…もう止めておきましょう。
ここまで出てきた数字が意味するのは、一般人が用意できるレベルの資金では、ミニチュア版GPIF の運用を完全に再現することは無理だ、ということです。

証券会社によっては、単元未満株の取引(100株ではなく1株から購入できる)が利用できるので、資金が398万円あれば、国内株式の構成割合を維持しつつ上位8割まで保有することは可能です。
ただし、購入後の値動きに応じて全銘柄を個別に管理するのは大変(ほぼ不可能)なので、このアイデアも現実的とは言えないでしょう。

これが最適解

だからといって、諦めるのはまだ早いです。

何も完全再現を目指す必要はありません
この点を理解できれば、個人がGPIFをマネすることは、十分可能です。

というわけで、前置きが長くなりましたが、最後に最適解をご紹介します。

先ほどまでの検証を通して、GPIFの基本ポートフォリオを身近に感じて頂くことができたと思います。
その一方で、たとえシンプルに見えても個別投資で同じように運用するのは難しいことを、知って頂けたと思います。

このことを踏まえたうえで、現実的な資産構成の最適解として、以下の表をご覧ください。

なぜこれが最適かと言うと、そもそもGPIFが目標としているポートフォリオが、このベンチマークを25%ずつ保有したものだからです。

加えて、「除くABS」や「除く中国」などの若干の違いを許容できれば、私たち個人でも投資信託やETF(上場投資信託)を利用することで、この4資産を簡単に均等保有することが可能だからです。

これなら、とても分かりやすいですよね。

なお、時間とともに資産価額は増減しますが、この場合の資産構成の見直し(リバランス)は、年に一回程度で問題ないでしょう。
なぜなら、各資産の中身である個別銘柄の管理は、投資信託やETFの内部で定期的に自動で行われるため、それが実施された後は4資産の構成割合だけ気を付ければ良いからです。

つまり、「ベンチマークと同じ投資対象を均等に長期保有すればGPIFの運用スタイルをマネできる」、これが今回の結論になります。

この結論は単純明快ですが、本当に大切なのはそこに行き着くまでの考え方にあります。

今回の検証によってGPIFの基本ポートフォリオの奥深さを理解して頂けたなら、たとえ暴落に直面して資産価額が下がっても、投げ売りせずに長期運用を継続できると思います。
そうして時間を味方に資産形成すれば、いつか思い描いた通りのゴールに到達できるはず、と考えられることこそ、GPIFをお手本にして得られる真の価値だと言えます。

ちなみに、個人が購入できる投資信託には4資産バランスファンドというものもありますが、必ずしもGPIFの政策ベンチマークと同じ構成とは限らないので、GPIFをマネるのが目的であれば、利用する際は中身の確認を忘れずにしましょうね。