私たちにとって公的年金は、リタイアメント後の生活資金となる重要な収入源です。
これから少子高齢化が進んでいく日本では、年金制度を維持できるよう、将来の現役世代の負担を減らす必要があります。
そのための対策の一つとして、私たちから集めた年金積立金の運用が行われています。
この資産運用の役割を担っている組織が、前回ご紹介したGPIF(日本の年金基金)です。
GPIFの運用は、既に財を成した資産家だけでなく、これから投資をはじめる人にとっても、とても参考になる安定重視の王道スタイルです。
その運用は、資産が大きく増えることを期待するのではなく、長期目線でインフレヘッジしながら手堅く成長を続けていくもので、まさに年金積立金の投資に相応しいと言えます。
というわけで、今回はGPIFの運用について、その詳細を見ていきたいと思います。
GPIFが運用する資産額
まず、GPIFが運用している資産はどれほどか、ご存じでしょうか?
おそらく多くの人はご存じないはずなので(私も以前は知りませんでした)、それを確認するために、GPIFのウェブサイトGPIFのウェブサイトを参照してみます。
このウェブサイトでは、GPIFの運用詳細を過去にさかのぼって閲覧できます。
数ある情報から年次報告を選んで、なかでも2024年4月時点で最新の「2022年度業務概況書」を基に、ここからの話を進めていきます。
はじめに、運用資産額を確認しましょう。
「2022年度業務概況書」によると、2023年3月末時点における運用資産の総額は、次のようになっています。
「200兆円」という数字が現実離れしているので、イマイチ実感しづらいですよね。
あえて何かと比べてみれば、日本の同時期(2023年1~3月)の名目GDPは約580兆円でしたので、その3分の1になります。
要するに、GPIFは私たちの想像を超えた巨額の資産を運用する年金基金だと言えます。
市場のクジラ
200兆円を超える資産を運用しているGPIFは、世界でも指折りの機関投資家と位置付けられており、ひとたび彼らが動けば市場に大きな波が立つという意味を込めて「市場のクジラ」とも呼ばれています。
このことは、海外の公的年金基金と比べてみると、とても分かりやすいです。
GPIFのウェブサイトから、2023年3月末時点の比較表を引用します。
データ取得日付にズレがあるため、ここではGPF-G(ノルウェー)の方が上ですが、時期を合わせればGPIFが首位を独走しているのが実情です。
つまり、GPIFこそ世界最大の公的年金基金、というわけです。
ちなみに、同じく資産の構成割合を比較してみると、GPIFの運用がいかにシンプルなものであるか、お分かり頂けると思います。
見事な運用実績
ここまで見てきたように、GPIFが運用している資産は、とんでもない金額だということが分かりました。
でも、私たちにとって一番興味があるのは、「いくら稼いだか?」ではないでしょうか。
年金積立金という大切なお金を運用して利益が出ていれば良いですが、もし損失になっていたら納得いかないですよね。
というわけで概要書を確かめてみると、次のように報告されていました。
2022年度末(2023年3月末)時点において、1年間で「2.9兆円」以上、2001年度から累積「108兆円」以上の利益が出ているそうです。
…相変わらず数字が桁違いでイメージしづらいので、今度はグラフにしてみましょう。
このうち赤色の折れ線が、各年度末での累積利益を表しています。
2001年度に運用を開始して以来、上げ下げの変動を繰り返しながら、右肩上がりのトレンドが見て取れます。
2022年度末時点でGPIFが運用している資産総額は約200兆円ですが、そのうち約108兆円は運用による利益というわけです。
注目すべきは、長期投資を前提に20年以上運用を続けたことで、ITバブル崩壊とリーマンショックという2大暴落を食らってもなお、資産は2倍に増えているという事実です。
これ、すごいですよね。
なお、資産が倍増という字面から、「利益率の高いハイリスクな運用」をしたように思われるかもしれませんが、実際はそうではありません。
運用を開始してからの年平均利回り(賃金上昇率の影響を除いた後)は、以下の通りです。
この利回りは、資産運用としては保守的な数字です。
つまり、GPIFの運用は年金基金のお手本と言えるような、リスクを取り過ぎない堅実なものなんです。
以前の記事(時間を味方につける①)(投資タイミングはいつが良い?①)では、資産運用を長期で継続することの有用性をお伝えしました。
それに加えて今回の結果からは、たとえ保守的な利回りだとしても長期運用は有用であり、むしろ手堅く資産形成できるということが、お分かり頂けたと思います。
そうすると「GPIFの運用を一般人がマネできるのか?」、なんだか気になってきますよね。
次回は、このテーマについて、じっくり検証していきます。