世界の国々には、そこで暮らす人々のリタイアメント後の生活を支えるため、様々な制度が存在しています。
そのうち最もインパクトの大きいものが、公的年金と呼ばれる(老齢)給付の仕組みです。
公的年金は、その国の経済はもちろん、人口構成や国民性、社会保障の歴史的な背景など、多くの要素を反映して設計されています。
それぞれの国に事情があるため、どれが優れているかを直接比較するのは難しいです。
それでも、所得代替率に目を向けるとざっくり1/3くらいなので、公的年金だけを頼りに生活しようとすれば、どの国だろうと相当な質素倹約が必要になります。
そんな公的年金ですが、国民皆保険制度をとる日本では、基本的に全国民の支え合いで成り立っています(国庫負担もありますが、ここでは割愛)。
その仕組みを簡単に言うと、①今の現役世代が納付している年金保険料は、リタイアメント世代が受給する原資に充てられ、②将来自らがリタイアメント世代になれば、その時の現役世代が納付する保険料を基に年金が支給される、という二段階に分けられます。
①が保険料支払期間、②が保険金受給期間ですね。
これからも①と②が上手くバランスしていけばいいのですが、少子高齢化が進む日本では、現役世代の負担が増えていく傾向にあります。
そこで、未来の年金制度を維持するために、現役世代の負担が増えすぎないよう予め備えておく、その役割を担うのが「年金基金」になります。
というわけで、今回からは、日本の年金基金の話をしていきます。
…年金なんて「自分には関係ない」「つまらなそう」、と思った人はいませんか?
ご安心ください。
退屈な年金制度の詳細には触れずに、多くの人が興味を抱くであろう「資産形成」に役立つ内容をメインにお届けします。
特に、これから資産運用をはじめたい人や、すでに行っているという人には、とても面白いと感じてもらえるはずです。
日本の年金基金が何をやっているのかを知り、今後の長期投資の参考にしてみましょう。
日本の年金基金:GPIFとは?
まず、日本の年金基金について簡単にお伝えします。
日本には、年金積立金管理運用独立行政法人という年金基金があります。
名前が長すぎて誰も覚えられないので、通常はGPIF(Government Pension Investment Fund)という英名略称が使用されています。
先ほど、未来の年金制度を維持する必要性について触れました。
そのための備えとして、年金原資(年金保険料)の余剰分を積立金で用意し、それを管理・運用する役割を担っている組織が、GPIFになります。
私たちの老後に大きな影響を与える割に、一般層におけるGPIFの認知度は低いようなので、この機会にぜひ知って頂きたいと思います。
むしろ、これからお話しすることを踏まえると、覚えておいて損はないと言えるでしょう。
GPIFの役割
GPIFは年金積立金を管理して、運用することを目的として設立された公的機関です。
ここで、年金積立金を「管理」する役割は理解しやすいですが、それを「運用」するというのは一体どういうことでしょうか?
「まさか国民の財産(年金積立金)を使って投資しているのか?」と思われた人がいれば、その「まさか」が正解です。
仮に「日本のバブル崩壊前後が人類の歴史の全てだ」という人がいれば、大切な年金原資で投資するなんて「けしからん!」となるでしょう。
しかし、ほとんどの日本人は、人類の歴史はもっと長く、加えて地球は丸くて世界は広い(日本はほんの一部)ということを知っています。
そうした世界基準の常識で考えると、年金原資をそのまま寝かせておく(何も手を付けずに金庫にしまっておく)ことこそ、絶対にしてはいけない「けしからん!」ことなんです。
その理由は二つあります。
一つ目は、運用しないでいると、年金積立金は右肩下がりに減り続けていき、いずれ尽きてしまうからです。
このまま少子高齢化が進んでいくと、年金原資のうち積み立てに回せる余剰分は先細って、遠くない未来に年金原資は余るどころか不足することになるでしょう。
原資が不足すれば積立金を取り崩すことになりますが、しまっておいただけでは、もちろんお金は1円も増えないので、蓄えはすぐに枯渇してしまうわけです。
二つ目は、以前の記事で見てきたように、現実の世界は長期的にインフレ傾向にあるため、元本が増えないでいれば、保有資産の価値がインフレに負けて目減りしてしまうからです。
つまり、国民から集めた大切なお金が減っていくのを、ただ指をくわえて見ているなんて「けしからん!」わけで、何とかすべきなんです。
こうした事情が背景にあり、100年先を見据えて長期で安定的に資産を増やしていくことが、GPIFに課せられた重要な使命となっています。
ここまでの話は、GPIFのウェブサイトの図を見ると分かりやすいので、以下に引用しておきますね。
シンプルで美しいポートフォリオ
では、GPIFは私たちの大切なお金を使って、どのような運用を行っているのでしょうか?
GPIF(その前身も含む)は、2001年に年金積立金の市場運用を開始しています。
投資対象については、これまで何度かの方針変更がなされており、2020年4月以降の運用で基本となる資産構成割合(ポートフォリオ)は、極めて分かりやすいものになっています。
その構成割合は、株式:債券=1:1、国内:外国=1:1、全体を通して見ると伝統的4資産(国内株式、外国株式、国内債券、外国債券)へ1/4ずつ、というシンプルさです。
これを以下のように図として表せば、均整の取れた美しいポートフォリオになっていることが分かります。
あまりにシンプル過ぎて、まるで「子供が考えたんじゃないか?」と不安に思われるかもしれませんが、全く問題ありません。
問題ないどころか、長期の資産運用において、株式と債券、国内と外国、それぞれバランス良く分散投資するのは、成功した資産家が辿り着く最も安定した王道スタイルと言えます。
「最も安定した」という言葉の意味は、大きく増やすことよりも、インフレによる資産価値の目減りに備えつつ、経済成長の恩恵を享受して手堅くコツコツ増やしていく、という運用をイメージしています。
それゆえ実は、裕福な資産家だけでなく、これまで投資したことがない人や、リスク許容度が高くない人にも向いている運用になります。
そういうことなら「私もマネしてみたい」、という人はいらっしゃいませんか?
そんな人のために、次回はGPIFの運用の詳細に迫っていこうと思います。
GPIFの運用について、資産額や収益といった実績数字を知ることで、王道スタイルの具体的なイメージを掴んでみましょう。