長田FPオフィス

お金と正しく付き合うブログ

貯蓄の質を高める

仕事などで得られた収入の内、支出に回した分を除くと、余剰資金が残ります。
ここから先は、「余剰資金を金融資産に変換する」ことを「貯蓄する」と言います。

多くの方にとって、貯蓄という言葉から連想される代表的な資産は、銀行預金ではないでしょうか。
以前話題にしたように、預金するとは「手持ちのお金を預金という金融資産に投資する」=「お金を預金に変換する」ことなので、ここで言う貯蓄の認識と整合します。これと同じように考えて視野を広げると、世の中には預金の他にも金融資産は存在するので、貯蓄する手段は複数あると想像できますね。

自身の保有する金融資産を守り、さらに増やすことができれば、収入源が労働から資産へシフトしても安心して生活できます。
このような状態を貯蓄の質が高いと定義して、その質を高めるための貯蓄手段を考えてみようと思います。

最初の一歩は預金

まず、最も基本的な預金について考えてみましょう。

そもそも必要性があるかどうかですが、これは「あり」です。
理由は明白で、近い未来の不測の事態に備えるためには、すぐ現金化できる資産を確保しておくべきだからです。
例えば、地震や豪雨の被害により避難生活を余儀なくされた場合、被災を補償する保険金・補助金などを後日得られるとしても、今日明日の生活に必要な食料や宿泊のためには、手元に現金があることが必須です。
そこまで極端でないにしても、会社員であれば倒産・解雇などによる想定外の離職の場合に、当面の生活費を工面するため現金が必要になるはずです。

この様に、貯蓄手段として預金を選択する際は、資産を増やす投資というよりも、いつでも利用できる現金を安全に保管しておく、という役割を期待することになります。
生活を維持できる一定額を「備え」として預金することが、貯蓄手段の最初の一歩と言えます。

預金額の目安

それでは、「備え」として、いったいどのくらい預金しておけばいいのでしょう?

これに関しては、残念ながら人によって異なるとしか言えません。
世間では、生活費3カ月~2年分くらいの生活費という範囲が提言されているようですが、数字の根拠は発言する人によって様々です。
どれも間違ってはいないので、自身に合う前提条件で試算された提言を採用すればいいのですが、ここではそんな曖昧な話でお茶を濁したくありません。

というわけで、私からは「生活費6カ月分を預金する」ことを推奨したいと思います。
この推奨に際しては、想定すべき不測の事態として、多くの方に当てはまりそうな勤め先からの離職を前提条件としています。
これについて、もう少し詳しく説明します。

一般的には、会社員が失業すると雇用保険から基本手当(いわゆる失業手当)の給付を受けることができます。
基本手当が幾らになるかは、勤務期間(雇用保険の加入期間)や離職時の年齢・賃金額などに応じて計算されます。
ざっくりですが、離職前の賃金日額の45~80%を90~330日分(自己 or 会社都合など条件によって)支給してもらえます。
ただし、離職理由などに応じて、申請から支給開始まで概ね3カ月の待機が必要です。
この制度を考慮したうえで、もし失業した場合は、給付された基本手当には手を付けないでおいて、預金で準備した金額を使い切った後の「保険」として活用する、とします。
これが肝です。
具体的には、基本手当の支給開始まで待機する3カ月+給付期間3カ月(最短90日なので)=6カ月の生活費を全て預金で賄っても、まだ基本手当が「保険」として残っている、という状態を意味します。
つまり「預金と基本手当の二段構えで安心できる」ことが、私の推奨の根拠になります。

私は以前離職した際に、「半年くらいあれば次の仕事は見つけられそうだけど、プラスアルファの余裕があれば安心して職探しに取り組めるな」という思いを経験しています。
その状況を心穏やかに乗り切るための回答として、先ほどの説明通り「生活費6カ月分を預金する」という結論にたどり着きました。
自身が納得する結論を出すには、現実の社会制度に基づいた数字による支え、つまり説得力が必要だったというわけです。

目指すべき貯蓄手段は?

さて、生活費6カ月分の預金を蓄えることができたら、いよいよ別の手段へ進んで、貯蓄の質を高めていきます。
対象となる金融資産は様々ですが、一つの指針として、米国における株式・債券・金・預金の実質トータルリターンを、過去200年の期間で見てみましょう。

これは、米国において1801年に1ドルだった資産が2006年に幾らになったかを、インフレ調整して計算した金額になります。
詳細は割愛しますが、約200年経過した結果、株式:75万5,163ドル、長期債:1,083ドル、短期債:301ドル、金:1ドル95セント、預金:6セントに金額が変化しています。
これを見れば、超長期で判断すると株式の一択になります(75.5万倍というダントツの実績)。
さすがに9割以上も安くなった預金を選択する人は、ほぼいないでしょう。

また株式の優位性は、20年前後の長期でも同様に検証されています。

つまり、貯蓄の質を高めるには、株式への長期投資が最有力の手段だと言えます。
もちろん、広く分散された米国株式など、優良な投資先を選ぶことが前提です。

最後に、2023年3月末の欧米と日本の家計の資産配分を見てみましょう。

欧米と比べて日本の預金(現金)比率は高く、一方で株式・投資信託の比率は低くなっています。
欧米の配分が正しいとは限りませんが、貯蓄の質という視点から見れば、我々日本人は資産配分について改めて考えてみる価値はありそうですね。