新緑の5月。
気持ちよく晴れた休日の昼下がり。
リビングの窓を目いっぱい開け放ち、爽やかな風を感じながら飲むものと言えば…
そう、良く冷えたビールです!
というわけで、今回は私の大好きなビールの話をしたいと思います。
ただし、はじめにお断りしておくと、ビールの味や歴史といった、美味しさが際立つような話題ではありません。
ビールを一つの例にして、統計データから世の中の動きが見えてくる、ということをお伝えしていきます。
私たちが利用できる統計データは、これから社会がどうなるかを考えるうえで、とても役立つヒントを与えてくれます。
今回ご紹介する内容は、シンプルで分かりやすいものなので、ビール好きな人だけでなく、アルコールに興味がない人にも、楽しんで頂けると思います。
やっぱりビール
早速ですが、日本人はどんなお酒が好きなんでしょうか?
おそらく「ビールだろう」と予想されるかもしれませんが、思い込みで判断せずにデータを確認してみましょう。
データといっても、難しいものを使う必要はありません。
ここからは、誰でも容易に無料で手に入れられる公的統計を基に、話を進めていきます。
利用するのは総務省が担当する家計統計で、政府統計の総合窓口e-Statから入手できます。
e-Statは、様々なジャンルの膨大な公的統計データを簡単に利用できる、神サイトです。
実はプロのデータアナリストも活用するほど有用なサイトで、そこには日本で飲まれているお酒に関するデータもあります。
家計統計には、私たちの家計収支の動向を明らかにするため毎月実施される「家計調査」というものあります。
マスコミが「物価が高くて生活が楽にならない」というニュースで引用するアレですね。
というわけで、ここでは家計調査のなかでも、酒類のデータに目を向けてみましょう。
このうち、お酒の1世帯当たりの年間消費量(ミリリットル換算)を、2014年~2023年まで年次データ(2人以上世帯)で抽出します。
それを視覚化したものが、以下のグラフです。
「ビール」と「発泡酒・ビール風アルコール飲料」が、それ以外の酒類よりも格段に多く飲まれていますね。
なお、「発泡酒・ビール風アルコール飲料」は、いわゆる「第3のビール」がメインなので、ここから本文中では「第3ビ」とまとめて略記します。
ところで、お酒の種類によっては、そもそも高いものもあれば、安いものもあります。
一般的には、ウイスキーの方がビールより高い一方、飲める量は少ない(アルコール度数が高いので)と考えられます。
お酒は嗜好品ですから、それに幾らお金をかけたかというのも、どれほど好きかを判断する大事な要素と言えるでしょう。
そこで、飲んだ量だけでなく、それに支払った金額も見てみると、以下のグラフのように、こちらもビールと第3ビが他を圧倒していることが分かります。
このように統計データを基にすれば、「日本人の好きなお酒はビールに違いない」という推測は、単なる思い込みではなく裏付けのある合理的なものだと判断できるわけです。
ビールと第3のビールを比べてみる
日本人はビール好きということが確認できたので、ここからはビールと第3ビにフォーカスして、ちょっと違った角度から見ていきましょう。
例えば、年代別にどちらが選好されているのか、それを比較してみます。
先ほどの1世帯当たりの年間消費量のデータを、今度は消費者の年齢で区切り並べてみると、以下のようなグラフになります。
なんだか傾向っぽいものが見えてきそうですね。
とはいえ一見しただけでは、「第3ビの方がビールより多い」「40~60代がボリュームゾーン」くらいが関の山で、それ以上の知見を得たいなら、このままではちょっと心許ないです。
そこで、データの表現方法を変えてみます。
年代ごとに消費量全体を100%としてパーセント換算することで、各年齢層におけるビールと第3ビの割合を視覚化します。
すると、先ほどの消費量のグラフは、以下のように相対割合のグラフに変換できます。
こうすることで、年代別の傾向をはっきり捉えられるようになり、ビールと第3ビのどちらが好んで選ばれているかを(理由はさておき)客観的に把握できます。
グラフの数字を確認しましょう。
ビールの割合は40代が最低(35%)で70歳が最高(50%)、全年代の平均は43%です。
40代を下限として、年齢層が離れるほどV字を描いて上昇していることが見て取れます。
つまり、ここ10年の間では、40代は他の年代に比べてビールより第3ビを選好しているが、そこから年齢層が離れるほどに、老若問わず徐々にビール選好が強まっていく傾向にあるという事実が、表現方法を変えたことで浮き彫りになりました。
たったこれだけのデータでも、見方を変えれば新しい情報を得られることが分かりますね。
データの解釈で気を付けたいこと
ちなみに、なぜこのような傾向があるのかを突っ込んで分析していけば、ビールや第3ビに対する様々なマーケティング戦略を構築することができます。
ただし、ここで使っているデータだけでは、そこまで分析を進めることはできません。
例えば、先ほどのグラフを見て次のようなことを閃いたとしましょう。
「40代は健康なので、たくさん飲める&飲みたい。でも子育て世代が多いから、お酒へ支出できる金額は制限されるはず。それでも満足できる量を飲むため何とかやり繰りした結果、安価な第3ビが選ばれた」
「70代はお金に余裕はあるものの、健康面を考慮して飲める量が減る(減らしたい)から、量より質を求めてビールを好む」
まるでデータの裏に潜む真実を発見した気がしますね。
しかし残念ながら、これまで見てきたデータでは、こうした発見を統計的に検証することは無理なんです。
これらの発見を検証して正しく解釈するには、年代別の収支やお酒に回せる可処分所得額、子育て世代の割合や健康と酒量の関係、さらには嗜好の違いといった定性面など、数多くの追加データが必要になります。
また、ビールに限らず、分析を進めたい対象によっては、公的統計だけでは足りない場合もあることに注意したいです。
ここではこれ以上データを増やすことはしないので、もしご興味がある人は、ご自身で追加データを入手して検証にチャレンジしてみると、面白いかもしれませんね。
世の中には、「このデータから、どこまでの解釈が可能か?」という点を考慮せず(もしくは意図的に無視して)、不十分なデータだけで断定してしまうケースが多々あります。
商品サービスの宣伝広告や、メディアを通じた政治的・思想的な主義主張などにおいては、そもそも結論ありきで、それに合わせるためデータを都合よく切り抜いたり、見せ方を変えたりといったことが、至るところで見られます。
そのような情報のミスリードから身を守るためには、統計データが出てきた際に「何が事実なのか?(データは加工されていないか?)」「どこまで解釈を広げて良いのか?(数字だけで説明できる傾向は何か?)」、そうした視点から注意深く見ることをおススメします。
統計データを正しく解釈できれば、その情報は生活に役立つ有益なものになり得ます。
社会の動きを捉えるだけでなく、個人の家計を考える際にも、統計データを上手に活用していきましょう。