長田FPオフィス

お金と正しく付き合うブログ

理論的には必勝だが現実的には必敗のゲーム

私たちが生きている現実世界では、「理論と実際が合致しない」ことが少なくないです。

例えば、株式相場の先行きを読むために、テクニカル分析という理論(ごく簡単に言うと、チャートに色々な線を引いて、あれこれ分析する手法)があります。

株式投資の経験者ならご存じとは思いますが、この理論、実際はあまり役に立ちません。
とはいえ、こんなふうに断言すると色んなところで怒られてしまいそうなので、この理論が役に立つ場合も挙げておきますね。

それは、「理論を信じる人」が一定数いて、その人たちが、それを「信じ続ける」ことで、「自己実現する」(短期的に相場が理論通りの動きをする)、という場合です。

…これ、見方によっては、「宗教や催眠を信じやすい人が集まって、集団で奇跡を体験する」という状態に似ているので、私は「あまり深入りしないでおこう」と考えています。

ちょっと脱線しましたが、ここから本題に入ります。

「理論と実際が合致しない」のに、何だか素敵な話に思えてどんどん引き込まれてしまい、いつの間にかのめり込んでいた…こういうモノって身近にありませんか?

身近にあるけど深入りしない方が良いモノ。
私にも幾つか思い浮かぶ節はありますが、そんなモノの筆頭は、やはりギャンブル(博打)ではないでしょうか。

というわけで今回は、ギャンブルの中でも、理論上は儲かりそうなのに実際は儲からない、それどころか「かなり危険なゲーム」をご紹介します。

そしてこのお話は、「そんなゲームには手を出さないよ」という人にこそ、知っておいて頂きたい内容になっています。
なぜなら、「儲かりそう」な話が溢れている世の中では、本人にそんなつもりはなくても、「気付いたら危険なゲームに参加していた」という事態に陥るかもしれないからです。

ゲームのルール

まずは、ゲームのルールを説明しましょう。

前提として、参加者は、親(胴元)とプレーヤー(お金を賭ける人)の二人です。

このゲームは必ず1回ずつ勝敗が決まり、誰にとっても勝率は50%、つまり勝つか負けるか、その確率は公平に毎回1/2とします。
引分けはありません。

そして、勝った人は賭け金と同額を獲得(つまり賭け金の2倍が戻る)、負けた人は賭け金が全額没収される(戻りはゼロ)とします。
当然、イカサマ無しの真剣勝負です。

もしここで、「ルールはこれだけです。さあ始めましょう!」と言われたら、どうでしょう?
「え?ゲームの中身は?何をすれば良いの?」って、なりませんか?

でも、ご安心を。
実はこのゲーム、遊ぶ対象は何でも良いんです。
コインの表裏を当てるでも、サイコロの出目が偶数か奇数かを当てるでも。

というわけで、このゲームの必須条件だけをまとめると、以下のようになります。

ルール

参加者:親とプレーヤーの二人
勝 率:50%(引き分け無し)

勝った場合:賭け金の2倍が戻ってくる
➡負けた場合:賭け金の全額が没収される

このルールさえ守れば、賭けの対象が何であっても、自由に遊べるんです。
つまり、とても手軽に出来るゲームなんですね。

必勝法を考える

それでは次に、このルールを適用した賭けで利益を得る方法、もっと直接的に分かりやすく言えば必ず儲かる方法を、お伝えします。

それは、「1回勝ったら獲得したお金を財布にしまって、そのままゲームを降りる。負けたら賭け金を2倍にして次のゲームに移り、勝つまで継続する(勝ったら即、ゲームを降りる)」、これだけです。
何ゲームも勝つ必要はありません、1回だけで良いんです。

例えば、3ゲーム連続で負けたとしても、その後1回勝って、そのまま帰れば良いわけです。
これさえ出来れば、この賭けは「誰でも必勝」なものになるんです。

いかがですか?
何回負けても1回勝つだけで良い、これなら簡単じゃないですか?

マルチンゲール法

でも、本当にそんなに簡単なんでしょうか?
念のため、計算して確かめてみましょう。

例えば、財布に1,000万円を入れて、賭け金1万円でゲームをスタートするとします。
1,000万円なんて一般人にとっては大金ですが、必勝できるんだったら問題無いですよね。

とはいえ、勝率50%でも、負け続けることだってあるはずです。
では、何連敗すると財布がカラ(破産)になってしまうのか、気になりませんか?

答えは、10回連続で負けると所持金がマイナスになってしまうので、そこで破産します。
この10回連続で負ける確率を計算すると、

  0.5 × 0.5 ×…(0.5を計10回掛ける) ≒ 0.09765625% ≒ 0.1%

つまり1,000回に1回しか起こらない事象ということが分かります。
これ、確率的にはレアケースと言えるので、ますます勝てそうな気がしてきませんか?

この「五分五分の勝率のゲームで、負けたら賭け金を2倍にして、勝つまで止めない」という賭け方、実は、世間では「マルチンゲール法」として広く知られているものなんです。

そう、すでに知られているんです、こんなウマ味のある必勝法が。
それなのに、なぜ多くの人が、これを実践しないんでしょうか?

現実を考える

みんなが実践しない、その理由を考える前に、1,000回に1回しか起こらない0.1%という確率について、もう少し分かりやすい例をご紹介しておきます。

まず、年末ジャンボ宝くじなら、5等(1万円)の当選確率が0.1%です(宝くじ公式サイト2024年12月5日付け宝くじニュース)。

また、交通事故なら、総人口あたりの発生率が0.2%程度です(人口推計1億2,435万2千人:統計局人口推計(令和5年10月1日現在)、道路交通事故件数307,930件:内閣府令和6年版交通白書)。

宝くじで1万円当選した人や、交通事故に遭った人って、案外お知り合いの中にいますよね?
このように、0.1%というのは、身近で発生してもおかしくないような確率なんです。

このことを念頭にして、マルチンゲール法の実践について考えてみましょう。
先ほどの事例で、1,000万円を元手に1万円から賭けをスタートして運悪く負け続けた場合、その賭け金と元金の推移、連敗する確率を試算した結果を、以下の表にまとめました。

この表から見えてくるのは、最初は少なかった賭け金が、雪だるま式に膨らんでいくこと、つまり複利効果で賭け金が増えていく、ということです。
負け続ける=賭け金を失い続ける、ということになるので、賭け金から元金へ目線を移して見ると、元金の減少に複利のチカラが働いてしまう、というわけですね。

また実際には、負け続けると「1,000万円を使い切る前に賭け金が不足してしまう」、そんな状態に陥ります。
この事例の場合は、9連敗すると次の10ゲーム目に参加できない、つまり賭けは終了となることが分かります。

もちろん、不足分の23万円を借金すれば、10ゲーム目に参加できるわけですが、その時点で賭け金は512万円に…いずれにしても、10連敗で破産することに変わりありません。

先ほどご紹介したように、ここで9連敗する確率は交通事故に遭遇する確率、10連敗となれば年末ジャンボで5等(1万円)に当選する確率、それぞれと同等になります。
これって、レアケースだけど現実的にありそうな数字じゃないですか?

ちなみに、以下の表を参照すると、資金が100(10)万円なら7(4)回連続負けで破産し、最後の7(4)回目をプレーするなら借金しなければならない、ということも分かりますね。

なお、もし勝つまでゲームを続けられたとしても、今度はギャンブルに勝って上機嫌な状態で「ゲームを止められるか」という、メンタルの問題が生じます。

この必勝法は、倍々で賭け金が増えていく、「かなり過激な」ギャンブル性の高いものです。
そんな賭けに参加するようなギャンブラーは、一度でも勝ちの味を占めたら「ツキが回ってきた!もうひと勝負!」という感じで、おそらくゲームを続けてしまうでしょう。
そうして、結局「お金が無くなるまで止められない」=「負け」という可能性が、どんどん現実味を帯びていくはずです。

想像すればするほど、「どう転んでも破滅する」、そんな恐ろしい結末しか見えません…

まとめ

最後に、ちょっと悲しいお知らせがあります。

もし賭け金が無くならないよう潤沢な資金を持ってギャンブルに臨み、マルチンゲール法を順守のうえ、勝つまでゲームを継続して勝ったら必ず即降りる、ということに徹した場合、一体どうなるのでしょうか?

実は、最終的に破産する1万円の利益で終わるか、という二択になってしまうんです。
資金が100万円でも1,000万円でも、結果は全く同じなんです。

資金がどんなに多くても、結局は破産か1万円貰えるだけか、…そんな割に合わないゲーム、やってみたいと思いますか?
これが、誰もマルチンゲール法を「実践しない」理由なんです。

ちょっと聞きかじっただけで儲かると勘違いして、軽い気持ちでゲームに参加してしまい、結果として破産する人が多い、それがギャンブルの実態です。

現代ではマルチンゲール法を実践する人は(ほぼ)いません。
とはいえ、これに似た理論上は儲かりそうな危険な話は、私たちの周りで後を絶ちません

知らず知らずのうちにウマい話に乗せられて、気が付いたら大事な資産を失ってしまった…なんていう間違いを避けるためにも、「君子危うきに近寄らず」という姿勢でいたいですね。