損害保険の代表的なものとして、前回は火災保険の概要を見てきました。
今回は、保険料(支払い)や保険金(受取り)について、お話ししたいと思います。
火災保険の保険料
まず、全ての損害保険に関連する基本原則をお伝えします。
火災保険に限らず損害保険の保険料は、純保険料と付加保険料の2つの部分に分けられます。
純保険料とは、「全ての契約者が支払う保険料の総額と、全ての受取人が受給できる保険金の総額が、等しくなる」、という収支相当の原則に基づいて計算されたものです。
一方、付加保険料とは、保険会社の事業運営費、代理店へ支払う手数料、保険会社の利益、それらを足し合わせたものです。
簡単にまとめると、以下のようなイメージになります。
保険料 ← 純保険料|付加保険料
↑
事業運営費 + 代理店手数料 + 利益
一般的には、この内訳を前提として、火災保険の保険料は算出されるのですが、特に建物については、その種類や性能の違い(構造級別)によって、さらに細かく分類されます。
以下のように、建物の種類は木造・鉄骨造・コンクリート造などに分けられ、建物の性能は耐火建築物・準耐火建築物・省令準耐火建物(多くの2×4住宅が該当)に分けられます。
過去の事故例や災害統計データを基に分析した結果、燃えやすさなど損害発生リスクの程度によって、保険料が異なる仕組みになっているわけです。
こうして各損保会社は、契約者の利益と保険会社の担保力をそれぞれ確保できる保険料を、各契約の補償内容に応じて設定することになります。
ちなみに、積立保険の場合には、積立保険料も追加されますが、話をシンプルにするため、ここでは考慮していないことを補足しておきます。
損害保険の保険料は、基本的に統計データと公平性に基づいて算出されます。
その根本にあるルールを2つ、ご紹介します。
【大数の法則】
試行回数が多くなるほど、結果は母集団の平均値に近付く、という確率の基本法則です。
この言い回しだけでは分かりづらいので、サイコロに例えて解説します。
サイコロの出目は1から6までランダムなので、2と5しか出ないとか、全部4だったとか、数回振った程度では、そういう偏りが生じやすいです。
ただし、振る回数を数百、数千、数万という具合にどんどん増やしていくと、1から6までの出目は各々1/6の確率に近付くことが、多くの実測経験から知られています。
実際に振った結果(標本)の平均値(期待値)は、振った回数(標本数)が多くなれば、母集団の平均値(1から6までを足し合わせた合計を6で割ったもの)に収束するというのが、サイコロの場合の大数の法則になります。
この法則によって、事故の発生確率を計算します。
【公平の原則】
保険金が支払われる事故の発生確率は、人や対象物によって異なります。
そのため契約者の間で不公平が生じないよう、発生確率の高い人(物)の保険料は高く、低い人(物)の保険料は低く、という調整が必要になります。
これが公平の原則です。
例えば、先ほど出てきた建物の構造級別は、この原則に基づく分類になっています。
火災保険の保険金
保険事故が発生した際、被保険者が被る最大損害の評価額のことを、保険価額と呼びます。
建物や家財の場合では、前回お伝えした再調達価額もしくは時価額が、保険価額(評価額)になります。
この保険価額と、予め契約した保険金額によって、支払われる保険金が変わってきます。
ちょっとややこしいので、建物を例に簡単に説明しますね。
まず、「新築3,000万円の住宅が、火災により全焼してしまった」としましょう。
この住宅を保険対象にして、保険価額を再調達価額(再建に必要な金額)として保険金額を設定していた場合は、住宅を再建するのに必要な保険金が支払われます。
仮に再調達価額が3,500万円だったとすれば、この全額が保険金として支払われます。
一方、保険価額を時価額として保険金額を設定していた場合、支払われる保険金は3パターンに分かれます。
再調達価額が先ほどと同じ3,500万円、経年減価額(消耗分)が1,000万円だったとすれば、これらの差額である時価額は2,500万円で、これが保険価額になります。
すると、契約で決めた保険金額によって、
①一部保険:保険価額(時価額)>保険金額 ※保険金額の方が低い
②全部保険:保険価額(時価額)=保険金額 ※同額
③超過保険:保険価額(時価額)<保険金額 ※保険金額の方が高い
の3パターンが想定できます。
①一部保険の場合、仮に保険金額2,000万円であれば、支払われる保険金は最大2,000万円(一般的には損害額に比例)と、保険価額(時価額)2,500万円より少額になります。
②全部保険の場合、保険価額(時価額)2,500万円と同額の保険金が支払われます。
③超過保険の場合、仮に契約で決めた保険金額が3,000万円だったなら、支払われる保険金は最大損害額、つまり保険価額(時価額)が上限で2,500万円となります。
一般に、契約者が支払う保険料は保険金額に応じて上下するので、保険金額が保険価額より高い③では、時価以上の分の保険料が無駄になってしまう点に、注意が必要です。
いくつも数字が出てきましたね。
ちょっと混乱しそうなので、これまでの話を以下にまとめておきましょう。
被保険者に支払われる保険金は、それぞれ条件に応じて赤マーカーの金額になります。
【前提条件】
事故の内容:火災で全焼
保険の対象:新築3,000万円の住宅
再調達価額:3,500万円・・・(A)
経年減価額:1,000万円・・・(B)
時価額 :2,500万円(上記(A)(B)の差額)
保険金額は、まず保険価額によって、再調達価額と時価額の2つに分けられます。
【保険価額が再調達価額の場合】
3,500万円(上記(A)と同額)
【保険価額が時価額の場合】
契約で決めた保険金額により、さらに3パターンに細分化されます。
①一部保険 ※保険金額2,000万円の場合
2,000万円(上限額。一般的には損害額に比例)
②全部保険 ※保険金額2,500万円の場合
2,500万円(時価額と同額)
③超過保険 ※保険金額3,000万円の場合
2,500万円(保険価額=時価額が上限額)
火災保険のまとめ
火災保険の基本的な内容を、2回に分けてご紹介しました。
火災保険は、住宅を賃貸・購入する際、関連業者に言われるまま加入する場合があるので、良く分からずに保険料を支払い続けているかもしれません。
また、個別契約の詳細は馴染みのないものが多く、仕組みが複雑かもしれません。
そうであっても、ここまでの概要を知っておけば、平時に落ち着いて契約の見直しや過不足を検討・判断できるようになると思います。
必要な補償を適正な保険料で賄えれば、いざという時の損害に備えるだけでなく、この先の家計改善にも繋がります。
そうやって自身に適した状態を維持できれば、きっとより良い未来が開けてくるはずです。
現在契約している火災保険について、この機会に確認してみるのも良いかもしれませんね。