長田FPオフィス

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投資の王道は長期・分散・低コスト②

投資の王道である長期・分散・低コストについて、前回に引き続き今回は実際の相場データに基づくシミュレーションをご紹介いたします。

具体的には、私たちに馴染み深い日経平均株価を取り上げます。
この指数の長期間の動向を参照しつつ、資産運用における長期・分散・低コストの威力を、客観的な数字で確かめてみましょう。

前回のおさらい

はじめに、前回の内容を、おさらいしていきます。

まず「長期」については、こちらのグラフを基に説明しましたね。

米国株式、長期国債、短期国債の各資産を運用し、その保有期間ごとのリターンとリスクを調査した研究です。

どの資産も、保有期間が長くなればなるほど、リターンのブレが小さくなっていく、つまりリスクが小さくなっていきます。

株式に至っては、20年以上保有すればどの期間を切り取ったケースでも必ずプラスになったという驚愕の結果が得られています。
長期で見た場合は債券より株式の方が安全、究極の元本保証資産だった、というわけです。

次に、優良資産への「分散」として、米国を代表する株価指数S&P500を取り上げました。

投資期間10~40年間ごとに対応させた利回り(配当を含まず)を計算した、以下の表を見て頂きましたね。

この表を参照して、長期投資の目安として、だいたい利回り8%くらいが妥当と思えること、また、この期間最長の40年に渡って運用したら約29倍にもなったこと(164.93→4,769.86)を、それぞれ説明しました。

このことから、優良資産への分散が、いかに効果的かという事実を確認頂いたわけです。

最後に、「低コスト」の重要性を説明するために、信託報酬が年率0.1~2%の幅でそれぞれ異なる投資信託(値動き無し)に100万円を一括投資して運用したら、コストはどうなったか?ということをシミュレーションしましたね。

この表とグラフから、信託報酬(年率)というコストの違いが、1年間ではさほど大きくなかったのに、20年間ではかなり大きな差として現れることを、金額ベースで確認できます。

元本100万円の資産だとすれば、高コストな年率2%だと20年経過で67万円まで減ってしまう一方、0.1%という低コストであれば20年経過しても98万円になるだけ、というものでした。

低コストにこだわることをバカにできない、それが良く分かりますよね。

日経平均株価への積立投資

では、おさらいも済んだところで、長期・分散・低コストの効果を確認してみましょう。

こちらは内閣府作成の資料で、日経平均株価に長期積立投資したシミュレーションです。

日本がバブル絶頂期だった1989年12月末、日経平均株価はその後30年以上も更新されることのなかった史上最高値を付けました(ようやく更新できたのは、2024年2月22日でした)。

このグラフは、その最高値の翌月からスタートし、毎月末1万円を日経平均に積立投資した、というシミュレーションの結果です。
ここでの資産運用は、1990年1月末から2023年7月末までの期間、実に33年以上もの長きに渡っています。

このシミュレーションで特筆すべき点は二つあります。
一点目はバブル最高値から崩壊までの暴落を含んでいること(日本経済における暗黒期間)、二点目はゴール時点までに最高値を更新していないこと、です。

そして今回は、この二点目が注目したいポイントなんです。
要は天井で投資をはじめてしまった最悪パターンを取り上げている、ということなんです。

この長期チャートでは、青い折れ線が日経平均株価、赤い折れ線が積立投資で買付継続した実際に保有している資産の合計評価額、グレーの網掛けが総積立額(元本)を表します。

ご存じの通り、バブル崩壊後の日経平均は底の見えない下落トレンドに陥り、長いこと低迷していました。
なかでも、この期間の前半から中盤にかけて(1998~2013年)15年間のほとんどにおいて、赤の評価額がグレーの総積立額を下回る、つまり元本割れしていたことが見て取れます。

15年というのは、産まれた子どもが義務教育を終えるまでの長さ…さすがにイヤになって、積立投資なんか辞めたくなりますよね。
もしも周りに流されて何となく雰囲気で投資していたら、1年も我慢できないでしょう。

でも、その後(2013~2014年から先)の推移を見ると、様子がガラッと変わってきます。
いわゆるアベノミクス以降では、日経平均のトレンドは下落から上昇に移って、徐々に値上がりしていきます。

そして、先ほどの15年を耐え抜いて資産運用を継続していれば、悪夢の元本割れ期間を脱しただけでなく、2023年7月末には、資産はなんと965万円にまで膨らむ結果となりました。
このゴール時点での総積立額、つまり投資元本は403万円なので、33年の運用を経て倍以上に増えたことになります。

たとえ「投資不適格」と言われても…

ところで、このチャートの赤と青の折れ線を比べて見ると、不思議なことに気付きます。

それは、積立投資で買い付けている日経平均(青)はバブル後高値を更新していないのに、保有資産の評価額(赤)はぐんぐん伸びている、ということです。
積立投資は、上手くいったわけですね。

一方、一括投資はどうでしょうか?
もしスタート時点1990年1月末に一括投資していたら、つまりその後追加の買い付けをせずほったらかしていたら、保有資産の評価額(赤)は、日経平均(青)の値動きに完全に連動するはずなので、スタートからゴールまでの間一度も利益を出すことなく、元本割れのまま終わっていたことでしょう。

この検証期間において、一括投資では失敗という結果になりますね。
でもこれは、常に一括投資がダメだ、と言っているのではありません。

この検証から言えることは、積立か?一括か?の優劣ではなく、今回対象とする33年間の日経平均は、優良資産へ分散する際の前提、「そもそも値上がりを期待して」が間違っていた、ということなんです。
つまり、この検証期間における日経平均は、残念ながら資産運用に適している優良資産ではなかったわけですね。

ただし、買ったときより値上がりせず「最高値を更新できない」そんな「投資不適格な対象」であっても「資産が倍になった」という事実は変わりません。
そしてこれこそが、資産運用における「積立投資の有用性を示す」強力なエビデンスになっています。

今回のように、投資不適格なものを選んでしまったとしても、長期・分散・低コストという基本方針のもとで、積立投資という実務手段を採れば、資産運用は上手くいく可能性がある(実際そうだった)というのは、私たちにとって勇気を与えてくれますよね。

ちなみになぜ積立投資が機能したかというと、それはドルコスト平均法が効いたからです。
ドルコスト平均法については、別記事で解説しているので、良かったらぜひ読んで頂きたいです(ドルコスト平均法①誤解に注意)(ドルコスト平均法②正しく理解するために)。

積立投資とドルコスト平均法は切っても切れない関係にあります。
そのため「ドルコスト平均法を正しく理解しておくことが、積立投資を継続して資産運用を成功に導く鍵になる」、と言っても過言ではないでしょう。

一括か積立か?

将来値上がりを期待している銘柄があれば、理屈のうえでは一括投資の方が効率的です。
「将来値上がりする」のなら、値上がる前に早く買った方が「安くてお得」ですよね。

しかし、私たちは感情の影響を大きく受ける生身の人間ですし、そもそも投資資金が一度に手に入るわけでもありません。
また、仮に大金が手元にあったとしても、それを一括で投資に回せるかというと、かなりの胆力(精神的な強さ)が必要になります。

こうした観点からすると、実際に資産運用を継続していくには、「お財布(投資資金)」と「気持ち(メンタル)」のバランスを程よく維持できる積立投資が現実的と言えるでしょう。

ただし、誤解が無いように付け加えると、どちらも一長一短があるだけで、絶対的に優れているとか劣っているとか、そういう分け方はできません。
理屈と実際のどちらで捉えるかによって、効率的か現実的かの違いがあるだけ、なんです。

そうした違いも踏まえたうえで、ドルコスト平均法を正しく理解できていれば、資産運用は積立投資で良い、という考えが、私が行き着いた結論になります。

いずれにしても、資産運用においては、継続することが一番大切なことです。
無理なく続けられるような手段を選んで、腰を据えて投資を続けて頂きたいと思います。