一般的に元本保証というのは、額面に記載されている数字は保証される(数字は減らない)ということです。
数字が減らないのは安心感ありますよね。
でも、安心と安全は似ているようで、その意味するところは異なります。
安心できる状態であっても、それが安全とは限りません。
今回は、安心だけど安全とは言えない元本保証についてのお話です。
お金の価値
お金の価値が減ってしまったら、つまりインフレになったら、私たちの実生活にどんな影響があるでしょうか?
答えは「購買力が低下する」です。
これは、お金の「額面金額の数字」が価値が減った分を相殺するだけ増えなければ、もともと持っていたお金で買えたはずの物やサービスが、買えなくなってしまうからです。
例えば、ここに1個100円のお菓子があります。
インフレになると、お菓子自体の価値は増えますが、一方でお金の価値は減るため、1個買うために必要な額面金額は多くなります。つまり、
【お菓子1個の値段】
インフレ前:100円 ➡ インフレ後:110円
100円持っていても買えなくなってしまうわけです。
これは、お菓子とお金の「交換条件」が変化したことを意味します。
そもそもお金というのは、ただの数字です。
そのため、それ自体には(単体では)何も価値は無いのですが、物やサービスなど「何か」と交換できることで、価値あるものに変わります。
「何か」と交換する条件が、お金の価値の度合いを決めることになります。
お金の本質を理解しやすくするために、簡単な例をみてみましょう。
例えば、あなたは砂漠を数日歩き回っているとします。
すでに飲み水は尽き、周囲を見渡しても砂だらけ。脱水で倒れそうですが、水辺に辿り着ける見込みはありません。
途方に暮れていると行商人がやってきて、1リットルの飲料水を売ってくれると言います。
値段を尋ねると「あなたの持ち金の全て」という回答が返ってきました。
あなたは全部で1億円持っています。
のどはカラカラに乾いていて、このチャンスを逃すと命を落とすことは必至です。
1億円で水を買いますか?
さて、この例では、1億円持っていても水を飲まなければ死んでしまいます。
つまり、お金=1億円というのは、それだけだと、ただの数字(に通貨単位が付いただけ)でしかありません。
水と交換できるからこそ1億円というお金は価値あるものになりますが、水と交換できなければ1億円は価値が無いままです。
これが「何かと交換できることで、価値あるものに変わる」というお金の本質です。
交換条件の変化
先ほど例に挙げたお菓子の場合は「お菓子1個=100円(インフレ前)」が交換条件でした。
この条件が変わらない場合、預金などで元本保証されていれば、リスクはゼロ(=お金の価値は減らない)と考えていいでしょう。
しかし、この条件が「お菓子1個=110円(インフレ後)」に変化すると、元本保証といえどもリスクがあった(お金の価値は減った)ことになります。
現実社会では、何も変化しないという事象は無く、経済情勢も日々刻々と変化しています。
そして、インフレかデフレかに限らず交換条件は変化し続けるため、お金の価値はその時の経済の状態によって決まることになります。
なお、以下のグラフが示すように、ここ200年の世界経済は、インフレとデフレを繰り返しながら、長い目でみるとインフレ傾向にあります(物価指数は物やサービスの価値を表しています)。
人間は、物やサービスの価値を増やして豊かな生活を送るために、文明を発展させる生き物です。
そうして経済活動が活発になる結果として、インフレ傾向になるのは当然と言えるかもしれません。
とはいえ、日本で長期に渡るデフレ状態に慣れてしまった私たちには、すんなり受け入れるのは難しいですよね。
安心と安全の違い
元本保証は、デフレの場合は得ですが、インフレの場合は損になります。
これは上述した通り、交換条件=お金の価値が変化するからです。
デフレ(お金の価値が増加)では、元本保証により額面金額が変わらなければ安心できます。
一方、インフレ(お金の価値が減少)では、額面金額=数字が変わらないという意味では安心かもしれませんが、実際は損する=資産が減ることになるため、安全ではありません。
つまり、安心と安全は本質的に違う、という代表例が元本保証になります。
安心は感情面、安全は事象面、というそれぞれ別の側面を表しています。
そのため、資産運用を検討する際には、投資する金融商品が元本保証されていても(例:銀行の預金)、安心と安全を区別して考えることがとても大切と言えるでしょう。